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それから
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花々の彩りが美しく、香りも心を落ち着かせてくれる。
ここ数日は、とても穏やかな気持ちで過ごせている気がする。
「ああ、もう!上手く出来ないわ」
「シルヴィ、ここ結べてないよ」
「あっ」
今もそう。
一般棟の中庭で、和やかに話せている。
シルヴィはというと、花冠を作る作業に勤しんでいる。こういうところを見ると、やっぱり普通の女の子だなって思う。
シルヴィにも、記憶が戻ったことを伝えた。
ぼろぼろと大粒の涙を流して喜んでくれて…いい子だよなぁ、ほんと。
ちなみに、本来奥の殿の巫女はみだりに一般棟に入ってはいけない。
でも、なぜか俺は中庭に来ることは許可された。
「どうしてだろう」と呟いたら、シルヴィは曖昧に言葉を濁しながら微笑んだ。
何か知ってるな…これは。
ちらりと後ろに目をやる。
「…」
「…」
そして目を逸らした。
「アイル、何で目を逸らすんだ?」
「や、その…、なんとなく…」
だって、すこぶる機嫌の悪さだった。顔に出てる。
「もういいだろ、帰ろうアイル」
「何言ってるのよ!独り占めはさせなくってよ?!」
「きゃんきゃん吠えるなお嬢様。耳が痛くなる」
「私を犬みたいに扱うの止めてくださらないかしら!!」
「ふ、二人とも…落ち着いて」
そして、なんだかこの二人は前より険悪になった気がする。
いや、包み隠さず言い合えるようになったのは、進歩と言えるのかな。
喧嘩するほど仲がいいって言うし。
「シルヴァーナ様、どこですか、シルヴァーナ様?」
「ほら、お嬢様の従者が探してる」
「もう…っ。いい?帰ったらだめよアイル!!」
「う、うん。ここに居るよ」
シルヴィは足早に声のする方へと駆けていった。
「シルヴィは元気だなぁ」
花びらを弄りながら、シルヴィの走って行った方を見つめる。
あれくらい元気に…積極的になれたらいいなって思う。
自分が卑屈気味なのは、よく分かってるから。
「アイル」
「ん…?」
振り向くと、そっと髪に一輪の花を挿された。
小ぶりの、けれども可愛らしい薄い青色の花。
「似合う」
「…っ、あり、がとう…」
柔らかく微笑まれる…たったそれだけで嬉しい。
その瞳に俺を映してくれて、俺だけに向けられた笑顔。
出会って、好きになって、俺の素性がバレて酷いことをされて…
決して平坦ではなかったし、今でも不安になることはある。
それでも、やっぱりシェスを好きになって良かったと思う。
「あ、そうだ。これも」
「何?」
手渡されたのは、小さな箱だった。結構重い。
「開けて?」
「うん…、…え、あれ、これって」
箱に入っていたのは、あの壊れてしまったオルゴールだった。
ハートの装飾が直ってる。
そっと取り出し、蓋を開けてみると、途切れ途切れに音が流れてきた。
「音!音が鳴ってる…!!」
「まぁ、綺麗な音じゃないけどな。古いものだったし、それにいくつか外れてて…」
「嬉しい…っ」
ぎゅ、とオルゴールを抱きしめる。
「そんなに嬉しい、か?」
「だって、シェスが直してくれたんだよね?」
「そうだけど」
「俺のために」
「…まぁ、そうだな」
「大切にするから…!」
「そ、そうか」
シェスが落ち着かないように目線を逸らし、頭を掻いた。
あれ…もしかして、照れてる…?
「ふふ…」
「…アイル」
そっと、頬を撫でられる。
あ、キスされ、…
「もー!聞いてよアイル!!」
「!!!」
突然聞こえてきた声に、どんっとシェスを突き飛ばしてしまった。
「あら、ルーシェス。そんなところで座り込んで何をしてるの?」
「……」
「シ、シルヴィ!どうしたの!!」
「あ、そうなのよ、聞いてよアイル!こんなもの贈ってこられたの!!」
「わ…綺麗な服」
「後ろはこんなよ!!」
「わぁ…すごい開いてる…」
シルヴィはわなわなしながら服を握りしめている。
皺になりそう。
「こんなもの贈ってくるなんて品性を疑うわ!何を考えているのかしら!」
「誰から?」
「お父様と敵対してる貴族の男…ほら、私が『言うこと聞いてくれなきゃ、敵方の男と結婚するわよ!』ってお父様を脅したでしょ?」
「ああ、その人。…って、ごめん、誘拐騒ぎのせい…?」
もしかして俺のせいで、こんな嫌がらせをされてる?
だとしたら申し訳なさすぎる。
「アイルのせいじゃないわ。だってそもそも、私はこの男に結婚してもいいなんて言ってないもの。私がお父様に言ったことを人伝に聞いたんだわ…!」
「シルヴィのことが大好きなんだ」
「私はごめんよ!手紙に『私の可憐な花の妖精へ』って寒気のするようなこと書いてくるのよ?!」
「こ、濃い人だね?」
確かにシルヴィは可愛いけど…すごいな、そういうこと言っちゃう人って本当にいるんだ。
「こんなに愛されて嬉しいだろ?結婚してしまえ」
「なんてこと言うのよ!!」
「そうすれば少しは女性らしく淑やかになるだろ」
「重ね重ね失礼ね…!」
「もう…やめなってばー!」
騒がしくも、楽しい毎日。
捕らわれていることに変わりはないけれど、でも、ほんの少し、安らげる場所。
シェスにそっと微笑みかけると、頭を撫でてくれた。
大丈夫。
俺はこの手のぬくもりがある限り…どんなことだって耐えられるよ。
絶対に。
「ねぇ、あれ誰?」
「あの巫女たちですか?片方はシルヴァーナ嬢……はて…もう一人は見ない顔ですね。新しく入った者では?」
「ふーん…」
「興味がお有りで?」
「そうだね」
「あれ、欲しいな」
つづく
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