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シキバの恋2~R18腐二次創作弱虫ペダル手嶋目線
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その朝、一は総北の部室の前に転がされていた。
いちばん最初に登校しようと競って登校してきた今泉と鳴子が見つけて病院、へ、運んでいいかを問う為に、まず俺に電話して来た。
「傷が…ちょっと…」
言い澱む口調で何が起きたかは察せられた。
「中央病院でなく、そこからニブロック先の浅倉医院へ。俺もすぐ行く!」
浅倉医院には、青八木のお母さんも来ていて、俺を見るなりつかつかと寄ってきて、パアンと俺の頬を張った。
「一はね! 一はね! 女の子ならお嫁にいけないようなことされたの! あなたのせいでしょう! あなたのお仲間が、あ、ごめんなさい、でも手嶋君、私は…」
しっちゃかめっちゃかだけど、言いたいことははっきりわかる。
俺がゲイでなかったら、青八木に、こんなことは起きなかったのではないか。
お母さんはそれが言いたいのだ。
今泉と鳴子が、俺とお母さんの間に割って入ってくれ、俺は今泉に廊下の隅へ連れて行かれた。
「青八木さん、最初意識あって、名前をひとつ口にしたんです」
耳打ちされたそれに、俺は思わず、えっとなった。
「ちょっと出てくる」
俺は浅倉医院を出、キャノンデールを置いたまま、電車で西へ向かった。
痛む拳を庇いながら、総武線に揺られている。
シキバをああさせたのは多分俺だ。
でも、何でよりによって一に…
そんなに俺を傷つけたかったのか。
人前なのに涙があふれてきて、俺はわざわざ席を立ち、車両隅から窓外を見るふりをしていた。
千葉駅で東戸が待っていた。
「おまえ部活は…」
「もう引退したって、俺に何度言わせんだ」
いつものように笑って言い、真顔になって俺を見た。
「シキバ、まずいことになってんぞ」
「あいつの名前は聞きたくない」
「青八木のことは聞いてる。つか、部室の前に投げられてっとこ今泉たちの次に見つけたのが、うちの後輩なんだ」
東戸の話が、ゆっくり俺の脳髄に染みていく。
怒りに盲いてた俺の目が開く。
葦木場、葦木場。
おまえを取り巻く環境が、そんなひどいことになってたなんて!
俺覚えてる。
車が自慢だった親父さん。
シキバのピアノの先生だったお母さん。
優雅で豊かな葦木場家が、何でこんなことになっちまったんだよ!
小田原駅で下りて、ちょっと迷う。
レンタサイクルか登山鉄道か。
気がせくときは自転車だ。
いかにも手入れ悪そうな、レンタサイクル飛ばして、箱学まで一気に戻ってみると、洗濯室に何人か屯ろってる。
中にシキバ。
ひときわでかい。
いま2メートル2センチだっけ。
その大柄な、でもバランス良くて美しい肢体に、何人もの男が群れている。
レーパンの中をまさぐってる者、唇を貪ってる者、顎にはくっきりと、俺のパンチの痕がある。
「ひどいっすよね。葦木場さんの美しい顔にパンチ見舞うなんて」
「その分俺らがめいっぱい慰めてあげますからね」
言いながら、そこここに触れてるやつらは誰ひとり、シキバの心に触れてはいなかった。
人形のような目をして、ただ奴らのしたいようにさせてるシキバは、見てられないほど投げやりで、こんなシキバにした誰かや何かを、俺は猛烈に憎んだ。
でも、絶対このままじゃいけない。
俺はその辺にあったもの~多分古いホイールだと思うが、今となってはよくわからない~をガラガランと倒して、やつらの前に身をさらした。
一同ははっとなった。
でもシキバの気配は変わらなかった。
「何、追加で殴りに来たの?」
ガラス玉みたいな目。
俺の知らない葦木場拓斗。
悲しい悲しい葦木場…
今にも泣き出しそうな俺を見て、イラ立ちが募ったのだろう、シキバは舌打ちして、そこらにいるやつら全部に言った。
「こいつボコボコにして! 心でもカラダでもどっちでもいい! こいつボロボロにしてくれたやつには僕進呈。三日間独り占めさせてやる!」
三日間!
シキバとすごす三日間がどんな意味を持つか、俺がいちばんよく知っていた。
だからやつら、本気で来た。
一人に組み付かれ、一人に引き倒され、一人は俺の顔やらカラダやら、めったやたらに引っかいてきて、痛いやら腹立たしいやら、なんかぐちゃぐちゃな気持ちになったけど、ヤバかったのは四人目で、いきなり俺の首をぐいぐい締め始めたのだ。
「ルウ、やめな! 総北のやつ死んじゃう! 死んじゃううっ!」
仲間のやつの止める声、止める動き、とびついたのはシキバ自身でやつは叫んでた。
「純ちゃんに触るなクズども! 触んな!
僕のだ! 僕だけのだ!」
「何をしている!」
洗濯室全体を震わすような大音声で怒鳴って入ってきたのは、先代部長の、何て名だっけ、福…富…?
俺の意識はそれきり途絶えた。
うっすら戻りつつある意識の中で、シキバが福富さんに叱られていた。
新開さんも荒北さんも泉田さんもいる。
確か…今の主将は泉田さんの筈だ。
「仲間に古い友だち襲わせるのがおまえのもてなしか」
「でも、純ちゃんが先に僕を裏切ったんだ」
「会わなくなっただけだろう。環境が変わったら裏切りなのか」
「裏切りです。僕のものは絶対無くなっちゃいけないんだ。だからこんな目に遭うんだ!
僕は間違ってない!」
パアン!
泉田さんがシキバをぶったけど、シキバの目は冷たく光ってて、反省に向かう様子はなかった。
「だいたいよォ、てめえ洗濯室何エロルームに使ってんだ。何か走れねーやつやたらおとりまきにしやがってヨ」
「走れないやつらなんだから、どう使おうが自由だ。走れたって、あんたなんか福富さんの穴じゃないか」
「てっ! てめこのっ!」
怒ったものの荒北さんは、顔まっ赤にして何かゴニョゴニョになってる。
(図星なのだろうか?)
「まぁ、靖友も拓斗もおちついて」
新開さんはさすがに冷静で、
「拓斗」
とあらためて口を切った。
「他校の生徒を傷つけたことは許しがたい事実だぞ」
「なら福富さんも同じだよね。自分は創部者の息子だから許されるのかな? いいなー」
どこまでもシキバは世をすねている。
よし、何とかカラダ起こせる。
俺はその場に起き直った。
「シキバ、俺んち来いよ。ピエール先生に相談して、転校編入手続きしてもらおう」
シキバは振り何かず、背中で頑なを示している。
「千葉に行くのか」
「行きません!」
福富さんの言葉を遮るように言い切って、憎しみのこもった視線を俺に放った。
「カッコいいね純ちゃんは。かわいそうなアシキバくんを友情で包むんだ。でもそんなのいらない! 僕が、僕が欲しいのはあくまで!」
新開さんがいきなり動いた。
俺に言い募り、立ち上がったシキバを、新開さんは一撃でのしたのだ。
そして新開さんは俺を見た。
「手嶋君、だよね。何もかも箱学の不徳のなせるわざだ。まして青八木くんのことは謝っても謝り切れるものではない」
「…」
「でもあえて言う。これは箱学自転車競技部の問題だ。俺たちに全部任せてくれないか」
もの凄く真剣な顔だった。
俺は一礼して、その場を出た。
「純ちゃんっ」
意識を取り戻したシキバが、僕を追おうとするのを、新開さんと荒北さんと泉田さんが、三人がかりで引き止めていた。
小田原駅に戻ったときには、すっかり夜になっていた。
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