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シキバの恋3完結~R18腐二次創作弱虫ペダルT2別話手嶋目線
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浅倉病院に戻ると、鳴子が俺を待っていた。
「お袋さん、カンカンでしたで。ぜったい病室には入れん言うたり、見舞いにも来ない言うたり、ほんまワヤでしたわ」
「すまなかった」
「今着替え取りに帰っとられます。そんでもって青八木さん、目々覚めてますで」
「!」
我を忘れて病室へ飛び込んだ。
俯せに寝かされてるーが、『お。』みたく手を上げるけど、なんか弱々しい。
めちゃめちゃ弱々しい。
ベッドサイドへ飛んでった。
「ごめんっ! ほんとにごめんっ」
「おまえの、せいじゃない。俺が、不用心、だった」
「違うだろうっ」
ああ、俺ってほんと泣き虫だ。
一見てるだけで涙出てくる。
「人工肛門に、なる」
「マジか!? 俺、俺、一生面倒みるよ!」
必死な俺を見て、一はくすっと笑って、
「ジョークだ」
俺はヘナヘナとその場に崩折れる。
「でも実際、かなり悪いし、何より痛い。ちょっとロ惜しい」
ちょっとどころじゃないだろう、と思って目を上げると、一はいつもに増して真剣な目で俺を見ていた。
「あいつ、俺通しておまえ見てた。助け求めてるみたいな感じだった」
「青八木…」
「俺はいい。あいつ助けてやれ。それできるの、きっとおまえだけだ」
弱々しく差し出された手をそっと握る。
「ありがとう。ありがとう、ー」
友情でしかない握手。
でも俺には、かけがえのないこの手。
離すのは惜しかったけど、今は行かねば。
「行ってくる」
部屋を出ると、廊下に東戸がいた。
「俺も行くよ」
俺は黙って頷いた。
葦木場の、いや正式には、中上の家は強羅にある。
そこから箱根学園まで、葦木場は自転車で通っていた。
ママチャリではないものの、市販でいちばんチャチな、マウンテンバイクもどきのやつだ。
双生児はおかかえ運転手の車使ってるってんだから、バカにするにもほどがある。
でも飛び込んでいって何を言う?
このうちでは、預り子に性的虐待すんのか! って、玄関先で騒いでもなあ…
東戸と二人、インターホンの前でためらってると、扉が開いて福富さんたちが出てきた。
俺に気づいた福富さんが、
「おう」
と手を上げる。
新開さん、荒北さんの他に、東堂さんも一緒で、俺を見るなり、
「おお新主将! 巻ちゃんの穴は埋まったかね!」
などと、さっそくあの饒舌が炸裂しそうになったが、
「今はそんな話じゃないだろう?」
新開さんがやんわりと釘をさすと、
「挨拶だよ挨拶」
と言いながら、少しすねたようにあとへ退った。
泉田さんに伴われて、シキバが出てきた。
でかいスポーツバッグやら、何やらを持ってるとこ見ると…
福富さん見ると、かれは深々頷いた。
「葦木場は今後寮生活をする。学費は成人後返済型の奨学金で賄う」
「足りねえ分は部の雑用して稼ぐんだと。洗濯室占拠してたんだから、とーぜん洗濯係だよな」
シキバは荒北さんの嫌味に全く反応しなかった。
「純ちゃんごめん」
大きな躰を縮こめるようにしてシキバは言ったけど、俺には返事が出来なかった。
同情はする。
だが、おまえのしたことは…
浅倉病院のーが脳裡に浮かぶ。
ベッドに俯したままのー。
たまたま今回は冗談で済んだけど、一つ間違えば、ーはほんとにあの世行きだったかもしれないんだ。
「今は許すなんて簡単に言えないだろうが、必ず償いはさせるから」
新開さんが言う。
「うち、私学だから、県立校に転入させるよりはぐっとフレキシブルだしね」
言いながら去っていく先輩方に、やはり俺は何も言えないでいる。
「純ちゃんっ」
最後までシキバは、俺の名前を呼んでいた。
一度も答えてやれなかった。
一は全快したけれど、今だに何か嫌なコトがあると、尻が痛むかのような仕種をして、俺に良心の呵責を与える。
たまに福富さんに電話して、シキバの様子を聞く。
車種はウィリエールを与えた。
自転車代は東堂の温泉旅館で働いて稼いでいる。
洗濯係は免除した。
いまぐんぐん伸びているので時間が惜しいのだ。
代わりにあいつの手下だったやつらが、臨時の洗濯係として忙しく立ち働いているが、たぶん彼らは専属になるだろう、等々…
そこで福富は声を潜めた。
「中上健太郎が逮捕されるようだ」
「逮捕ですか?」
「かなり悪質な児童虐待者だったらしい。土地の名士が聞いて呆れる。実の息子にも手を出してたらしいから、葦木場も、多分…」
俺は言葉を失った。
父親がしてることなら子供は平気で真似るだろう。
建太郎、修也、龍也。
悪徳の連鎖。
そしてシキバが餌食になり、シキバから洗濯室のやつらへ、そしてーへ…
悪徳の連鎖は悪徳のヒエラルキーとなってシキバをがんじがらめにしていた…
でももうそれは終ったのだ。
「いろいろありがとうございました」
深く一礼して電話を切ろうとしたとき、福富さんの方から声をかけてきた。
「二つ質問がある。一つはあのとき君のそばにいた青年だ。葦木場に聞いても知らないというのでな」
シキバー…
東戸忘れてたのか?
もしかして俺以外、誰も覚えていないんじゃないのか?
あり得る…と考えてる俺の耳に、福富さんは次の混乱を投げ込んできた。
「でもってもう一つの質問はだな、その、葦木場はどのくらい、『イイ』のかという…」
俺は答えずに電話を切った。
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