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奏で合う~R18腐二次創作弱虫ペダル黒田目線、葦黒黒葦
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※ 『純太を奏でる』の逆サイドバージョンです
学会の帰り、飯食おうと立ち寄ったレストランで、偶然ポスターを見たのだ。
『タクトアシキバリサイタル』
残席二十七。
二十七?
嘘だろここの音楽堂。
一万二千人入るんだぞ?
ポスターのシキバは気難しい目して、何だか虚空を睨んでいた。
『どこで買える?』
店主に聞くと、
『買わんでええ。ここにある』
『買ったんだろう?』
『もう必要ない』
ハートが割れた仕草をしてみせる。
『もらってくれると俺も助かる』
無骨なおっさんからウィンクされ、俺は素直にお礼を言った。
オッサンが行きたがらなかったわけがわかった。
隣席の女はたったひとこと、ジェフィーは来ないのかと聞いたきり、あとは隣席の優男としゃべりづめだった。
男の指に、外したばかりみたいな指輪の跡。
女は気づいていないようだ。
半年もしたら、こいつ、絶対悔いるのだ。
ジェフィーは武骨だけど優しかった。
二股かけた私は、二股の男に捨てられるのだ…
しん…と、会場が静まり返った。
長身のシルエットがのそーっと現れ、一万ニ千人(少し欠ける)におざなりにお辞儀した。
てくてくと椅子へと回り、徐に座…
…ったとたん、いつものように表情が一変した。
音楽に向き合う時だけは、シキバは別のシキバになる。
いきなりダァンと鍵盤が、拓斗の指先に蹂躙され、別人の拓斗はいきなり全開になった。
リムスキー・コルサコフの「くまんばちの飛行」。
うなりを上げる蜂たちが、拓斗のピアノから放たれる。
ー万ニ千人はただただ戦き、恐れ、逃げまどい、悪夢の夜は始まった。
すばらしくもただただ恐ろしい一夜だった。
この街には三夜留まる。
きのうの論評はベタ褒めだった。
『激しく心を揺さぶる演奏!』
『タクトは21世紀を代表する音楽の神だ!』
そうは思えなかった。
嘆き。
痛み。
悲しみ。
そんなものばかりが俺を小突き回し、そのくせ心の臓には何も、かけらも迫って来ないのだ。
何かがおかしい。
というか…
なんかめちゃめちゃ本人と話さなきゃいけない気がして、俺は楽屋に向かった。
たまたましつこいファンが本人に会わせろと騒いでて、警備がそいつにかかりきりだったため、俺はすんなりキープアウトの内側に潜り込めた。
けど。
室内に引き込まれた俺は、あの長身に一気に押さえ込まれた。
一瞬荒北さんの顔が浮かんだ。
ヤるなら荒北さんって思ったのか、荒北さん助けてって思ったのか、自分の心に聞く前に、シキバにタキシードを剥がれた。
俺と気づかずにヤろうとしてやがる。
もの凄く腹立って、屈辱で、同時に何がコイツをかりたててるのか疑問に思った。
あ。
何か口走ってる。
何、何、純ちゃん?
純ちゃんて総北の…?
あいつ…?
そか。
手嶋はあの金髪のやつを、葦木場はそんな手嶋を、ずっとずっと思ってきたのだ。
届かない追っかけっこ。
俺の手が塔一郎に届かなかったように、荒北さんに届かなかったように、おまえの手も空を切ってきたのか。
キスも愛撫もたどたどしくて、ただ切なくて哀しくて…
俺は態勢を入れ替えた。
「代われ」
巨体を姫のように抱かえて、キスする。
戸惑うように俺を見る目を、ちょっと笑って見返す。
「するよりされる方が好きだろ? 誰だと思っててもいいから」
覆い被さろうとしても表面積は、向こうのが大きいから完全には無理だけど、巨人族でも姫は姫。
しとやかにふるまえるように扱うのが男の仕事だ。
のしかかり、口づけながら、下半身を探っていくと、からだの中心でそれが震えた。
包みこむように上下させると、ぬるりとぬめりが俺の手のひらを濡らす。
その手のひらをなするように、蟻の戸渡りを越えて後ろへ。
予想はしてたけど、葦木場は涙の瞳を左右に振った。
「同情なんか」
「してねーよ」
それに許可も求めてない。
俺の抜き身がそこをとらえ、正しい方向を模索する。
貫くと、ああっと姫の唇が動き、俺と姫とはひとつながりの生き物となった。
気がつくと朝になっていた。
場所も楽屋ではなく、葦木場のホテルのベッドルームに移っていた。
丁寧に丁寧に攻めた。
愛されてると感じられるように。
もう二度とあんな痛い演奏をしなくて済むように。
上になり、下になり、幾度となく貫いて、貫きながらキスして、俺たちはいつしかひとつの何かを完全に分かち合っていた。
それはおそらく孤独。
深い切ない…
朝の光の中で、俺は一人だった。
葦木場は既に出達していて、部屋の代金はすでに払われていた。
また、置いていかれた…いや。こんどはまだ間にあう。
俺はプレイガイドに電話して、次の演奏スケジュールを聞いた。
❗次の次のも、次の次の次のも聞いた。
来月三日からボルチモア、七日からはカーソンシチー。一週間あけてベルリン。
行くさ。
世界中どこへでも。
大学なんかクソクラエだ。
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