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響き合う~R18腐二次創作弱虫ペダル葦木場目線
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リサイタルのたびにかれがいる。
いつも六列目の中央あたり。
真剣に聞いててくれる。
トルコ行進曲。
エリーゼのために。
別れの曲。
日本のイージーリスニングも交えてみる。
愛しのエリー。
イエスマイラブ。
いそしぎ。
メルボルン、ケニア、コペンハーゲン、神戸。
僕はちょっと、だんだんと、彼の席が埋まってるのを、確認するのが楽しくなってきていた。
ピアノの下で純ちゃんに抱かれた日々が遠ざかり、あの夜のユキが取って代わった。
ピアノを弾いているときでさえ、僕は彼の愛撫を思い出す。
リサイタルの日毎に僕は、遠い席のユキに向けて放っていたのだ。
来られない日には花が届く。
だから僕はどんどん花が嫌いになっていった。
アレンタウン。
ビリー・ジョエルが歌った街。
花は来ない。
ユキは来る。
浮き立つ気持ちで支度する。
四週間あいてしまった。
すごくさびしかった。
今日ユキが来てくれなかったら、たぶん僕は二度と弾けなくなる。
そうだいそしぎ。
ユキはいそしぎが好きだから、一曲目はいそしぎにしよう。
急遽曲変更をスタッフに告げてるさなか、鉄道が計器トラブルで立ち往生してると知らされた。
八時の開演を九時にしてみるよ。
主催の言葉より、僕は空席に目が行っていた。
まだ空いていた。
九時半になっても列車は立ち往生のままだった。
十時には開けるから。
主催側が決めたけど、あの席はまだ埋まらない。
花は来ない。
彼はきっと来る。
彼のいないところでいそしぎを弾きたくない。
十時二十分。
ついに幕が開いた。
人がまだ、パラパラパラパラ入ってくる。
普通なら閉め出すものだが今日は、僕のたっての願いで、遅れた人も入れるようになってる。
バンドが弾け、と目で示す。
主催も幕陰から弾けと、手で示す。
お辞儀して、ピアノの前に座ると、場内はしん、と静まり返った。
前奏を、ポロン、ポロン、ポロン、と、弱く弾き始めるがまだ空席だ。
弾こうとしたけど止まってしまった。
客席が少しザワザワする。
もう一度奏で始める。
ポロン、ポロン、ポロン、ポロン、やはり止まってしまう。
ユキ、ユキ、ユキ、ユキ。
君がいないと僕は…
そのときだった。
「タなぎの渚を…」
声!
歌声!!
スーツ姿なのにクォータひいてユキが現れた。
場内だよ。
人は遅れても入っていいけど自転車は…
「ユキ!」
僕は走った。
ピアノを、ステップを通路をお構いなく、まっしぐらに走っていって、小さなユキに抱きついた。
「こっ、こら、」
「よかった! よかったユキ! ユキいないとだめだ! 僕だめだっ」
「拓斗…」
周囲の凝視に耐えられなくなったのだろう。
ユキはだし抜けに叫んた。
「ういーあーベすとふれんどっ」
ざわざわが静まり始めたのだけど、僕は言わずにはいられなくて…
「I love him, I want to marry him!」
場内が水を打ったように静まり返ったけど…
次の瞬間、割れんばかりの拍手と歓声と口笛が場内に溢れた。
主催もユキもめちゃめちゃ困ったみたいだったけど、僕一人めちゃめちゃ幸せだった。
アンコールでアレンタウンといそしぎを弾いた。
お客さんたちと一緒に歌った。
あれからずっと一緒だ。
ピアノの下の記憶はユキに書き換えてもらった。
ユキの指先で、それで、僕は乱され啜り泣く。
さよなら純ちゃん。
僕は今、君より多分…
君より多分幸せだ。
黒田追記。
シキバはずーっといそしぎと呼んでるけど、あの曲のタイトルはタなぎだ。
たしかにいそしぎは出てくるけど、うたい出しが既に「タなぎの…」だろうが。
今日という今日はと思って言ってやったが、やつは笑って言いやがった。
「ユキ、かなり音外れてたね」
殴っとけばよかった。
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