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「......只今、戻りました。」
緊張の面持ちで秘書室の扉を開く凪は、前回同様叱られる事のない様に、サッと入ってサッと閉める。
よしっ!! これで文句ないだろう!!
内心ガッツポーズでデスクへ戻ると、向かいのデスクで槇野が絶対零度の微笑を張り付けてこちらを見ていた。
「お帰りなさい相原さん。随分お早いお帰り
ですね。」
サラッと嫌味を言われて内心思う。
...すっごい氷の微笑。シャロン・ストーン降臨てか。差詰、あのスーツのスカートの中はノーパンだな。......ハッ! いっかーん!!雅臣常務に毒されて思考が変態だっ!! 会社の先輩、しかも女性に対して何たるハレンチな思考!
雅臣常務よりなお悪いかも...。と自分のハレンチ極まりない思考に落ち込んでいると、
「お忘れだといけないので念の為申し上げておきますけど、そちらはのファイルの入力は、くれぐれも“本日中“に終わらせて下さいね?」
............はーい。
槇野ににっこり微笑まれ最早ぐうの音もでない。
蛇に睨まれた蛙の気持ちを味わい、専務室行って参りますと大量のファイルをばばばばと抱え、脱兎の如く秘書室を飛びだそうとしたが扉の前で立ち止まる。
......これ、...どうやって開けよう。
手に抱えたファイルと扉を交互に見やり、途方に暮れて思わずスーっと槇野へと視線をやると、自分のデスクに着いたままにっこりこちらを見ていた。けれど、声には出さないがその顔には、“私はその扉は開けませんよ“と書いてある。
.........。 いいですよぉーだ!自分で開けるもんねぇー!!意地悪女王めっ!!
さっき反省した事を逆に反省しちゃうよ!
いいよぉ、足使っちゃうもんね。パンツ履いてるから足開いても全然気にならないし!!
プンプンしながら勝手に、槇野=氷の微笑=ノーパンの方程式を作り上げて心の中でぐちる。
男とは言え、堂々と秘書にあるまじき所作でピカピカのそのガラス扉を開けようとしたとき、
「私が開けますわ。少々、お待ち下さい。」と後ろから声をかけられた。
はい、どうぞ。と綺麗な所作で扉が開けられて
有難うございますと軽く会釈をして脇を通る。扉を開いてくれた人を見て、わぁ~、槇野さんとはまた違ったタイプの美人だなぁ~とついマジマジ観察してしまう。
そんな凪の様子を口元を手で覆いながらクスクスと笑う謎の美女。
「ご挨拶が遅くなってしまって申し訳ありません。私、昴社長の秘書をしております、橘 薫子 と申します。専務室ですよね?私も社長室に参りますので半分お持ち致します。」
と丁寧極まりない挨拶に加え、ファイルを然り気無く運ぶのを手伝ってくれる橘に凪は物凄く感動していた。
めっちゃ好い人!!女神じゃん!!
「有難う御座います。あの、本日から専務秘書になりました、相原凪です!」
弾けんばかりの笑顔で言う凪に橘は「はい、存じて居ります。」とまた綺麗な微笑み。
槇野の絶対零度の対応の後なだけに、物凄くジーンときた。
......秘書室と言う名の大奥にも良い人居た。秘書室、居心地悪くて大っ嫌いって思ってたけど、橘さん居たら平気かも!
嬉しさを隠す事無く、ルンルンで歩く凪に、ご免なさいねと橘が声をかけた。
「......ん?」
「 槇野さんの事...。悪気が有る訳じゃないのよ」
......槇野さん?いやいや、悪気タップリに見えるけど。
と秘書課での槇野を思い出して訝しむ。
「 彼女ね、ずっと専務秘書希望だったの。三役の秘書は高給だし人気職だから、一度なれたらちょっとやそっとの事じゃ辞職しないし、守秘義務上の関係で配置変えも滅多に無いから、前任の専務秘書が退職して今回こそ!って思っていたのよ、きっと...」
苦笑しながら、許して差し上げて。と続けられたら、心の中で槇野に愚痴っていた事を反省した。
......そう、だったんだ。ずっと希望しててやっと巡ってきたチャンスだったのに、ぽっとでの俺がいきなり専務秘書じゃ確かにムカッてなっちゃうかも。
「 教えて下さって有難うございます。知らなかったら槇野さんに苦手意識持っちゃうところでした」
冷たくされる理由が解り、少しすっきりした気持ちで橘にお礼を言うと、よかったですと微笑まれた。本当に女神。
「でも、それなら槇野さんを専務秘書にして、私を常務秘書にすれば解決する話ですよね。勝手に決められる事じゃ無いけど」
守秘義務上の関係で配置換えは滅多にないと言われたのにも関わらず、凪は名案閃いた!と言わんばかりのドヤ顔で橘に伝えるも、「...それは無理でしょうね。」と言われ、何で?と顔に疑問を張り付けたまま小首を傾げて橘を窺う。
「.....守秘義務の関係もあるけど、そもそも恭司専務は自分に恋愛感情のある人をお側には置かないの。前任者もそれで退職したから...。一番信頼して全てを任せるけど、そういう感情は迷惑以外の何物でもないってことを如実に示しているのよ。」
とてもビジネスライクよねと苦笑する橘の言葉に凪は少なからず動揺した。
...いやいや、何動揺してんだろ。だから男の俺を秘書にしたんだ。......納得。
けど、納得したけど、何かどっかがぽっかり穴空いたみたい。......何だろ、
理由の解らない虚無感に晒されてぐるぐる考えていると専務室の前に到着し、此方で失礼致しますねとファイルを返して微笑む橘に本当に有難う御座いました、助かりました。とお礼を言って別れたが、凪は専務室の扉の前で、無意識に深呼吸を繰り返していた。
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