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.........ダメだ、...入れない。
凪は専務室の前で茫然と立ち尽くす。
橘から聞かされた恭司の話に少なからず動揺もしたし、無意識に自分を落ち着ける為に深々と深呼吸も繰り返した。
だが、専務室に入れない理由はその事とは関係ない。
大量のファイルのせいだ。
秘書室は両開きのガラス扉で、あの時例え橘が声を掛けてくれなくても最悪足でちょちょいだ。だが専務室の扉はそうはいかない。
見るからに重厚そうなクラシカルな木目の扉。実際、午前中にここを開けた凪はこの扉が重いことを知っている。極めつけ、こちら側からは引かなければ開かない。試しに扉に付いている金色の手摺の様なノブに手を掛けてみるが、間違いなく引こうと力を入れた瞬間に、この腕の中のファイルはバラバラと落ちていくだろう。
...ダメだ、どうしよう。ファイル一端床に置く?
面倒くさっ!...無しだな。...じゃあ、どうする。ちょっと大きな声で呼んでここから恭司専務に開けて貰う?
......イヤイヤ、もっと無しだな。
カムバック、橘さんっ!
誰か通るの待つったって、このフロア一般社員立入禁止だし、居るとしたら三役とその秘書...。
社長に開けて貰うなんて論外だし、恭司専務はこの中だから除外でしょー、橘さんは今行ったばかりだから多分来ないし、槇野さんは、...きっと通ったとしてもスルーだな。俺はこんなだから無理だし、ってゆーか俺が開けられるなら、こんな事で悩まないし...。
......あぁ、雅臣常務通んないかなぁ。今ならすっごく会いたいよ。変態でも。
使えるものは変態でも使えってか。ははっ、
雅臣も重役であることをすっかり失念して扉の前で自分の下らない考えに笑っているとガチャと鈍く重い音を立てて目の前の扉が開いた。
「 ── っ!? うわっっ!?」
開いた扉にぶつかり、バラバラバラと盛大に床に散るファイルを見て後悔。こんな事なら面倒くさがらずに床に置いて扉開けるんだった。
「凪くん? わっ!?ごめんね!!」
扉の中から恭司が顔を出し、床に散らばるファイルを見て慌てると謝りながらファイルを拾ってくれる。大丈夫です、逆にお邪魔になって申し訳ありませんと謝り、凪も同じ様に屈んで拾い始めたが、互いの背がトンッとぶつかり2人同時に振り返った。
── !!? 近っ!!!
余りの近さに、申し訳ありませんと赤面して下がろうとするも、恭司が凪の頬に手を添えてそれを許さない。
「 ファイルごめんね。遅いから迎えに行こうかと思ったんだ。淋しくなっちゃってね」
近すぎる距離で微笑みを向けられて、凪は固まった。ズキューンと何かに射抜かれた様な衝撃に煩くなる心音。
何だろう...、ドキドキする......、
じっと見つめ顔を赤らめる凪を見て満足した恭司は、さらに笑みを深める。その頬から手を離し、変わりに背中にそっと手を添えてさぁ、どうぞと専務室の中に凪を促した。
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