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耀子と共にホテルへ赴き、フロントでチェックインをしていると、やはり隆雄が出向いてきた。
と言うのも、このホテルにとっておそらく重客なはずの耀子を出迎えるのは、オーナーの隆雄であろうと踏んでいたからだ。
「いらっしゃいませ、中津川様。お待ち申し上げて居りました。」
隆雄は定型文な挨拶を耀子にし、
「...高嶺専務が御一緒とは存じて居りませんでした。先日は失礼致しました。その後どうですか?」
と恭司に聞いてきた。その後とは凪の事を言っているのだろうと思い、
「此方こそ御世話になり、感謝して居ります。お陰様で経過は良好ですよ。」
そう返すと、「それは安心致しました」と隆雄はチェックイン業務を続ける。
「リストランテのメニューを御希望との事ですが、直ぐにお持ち致しますか?」
隆雄の言葉に耀子が「どうします?」と聞いてきたので、恭司は隆雄に向けて商談だということを殊更強調する。
「食事をしながらでも、その後商談をするにしても、どちらでも私は構いませんので、中津川社長の御好きに為さって下さい。お任せ致します。」
その言葉を受け、隆雄は耀子が見ていない事を確認すると恭司を見て一瞬ニヤリとした。恭司のこの言い方は自分に敢えて聞かせていると容易く分かる。変な勘繰りをするなよとでも言いたいんだろう。
結局、食事をしながらという事になり、隆雄からカードキーを受け取るも、キーを渡すときの隆雄が一瞬、難しい顔をしたのが気になった。
「ごゆっくり御寛ぎ下さい。」と殊更意味深な顔で言う隆雄に、冷たい目を向け、耀子と部屋へ行く。部屋へ着くと、隆雄の難しい顔の理由が分かり恭司は渋い顔で溜め息を吐く。
何の因果か耀子の予約した部屋は、凪が田邊に呼び出されたあのジュニアスイートで、これには恭司も苦笑した。
「早速ですが、内容をうかがっても宜しいですか?」
部屋に入り、備え付けのテーブル席に腰掛けるなり、耀子に切り出した。「せっかちなんですのね。」と笑う耀子に何も返さず本題を待つと、
「先程申し上げた通り、御社にとっては多大な利益になる話ですわ。......但し、貴方の返答次第ですけど。」
「...私の返答次第?と言いますと?」
「御気がつきの事と思いますが、私、高嶺専務をお慕いしておりますの。...大切な方が居るというのは先程お聞きしましたから、お付き合いをとは申しません。今晩、ここで私と、一晩だけで結構です。もし、御了承して戴けるなら、私の会社は御社の傘下に下りますわ。決して悪い話では無いはず。お請けして頂けますよね?」
耀子には自信があった。一晩共にすれば恭司を落とせるという自信が。仕事を盾にしたとしても、どんな人と付き合っているかは知らないが、自分を上回れる程の者ではないだろうと考えていたからだ。
これには恭司も驚いた。耀子の会社を傘下に置くのは利益を上げる所の話では無い。経済紙の一面を飾る程の騒ぎになるだろう。だが、それでも頷けるはずがない。たった一度でも、凪を裏切る事など出来るはずがないし、したくもない。
「お請け致しかねます。仕事の為とはいえ、中津川社長と一夜を共にするつもりはありません。その条件しか選択肢が無いのでしたら、この御話は無かった事に。」
傘下に下るというこれ以上無い程の好条件をあっさり蹴った恭司に、耀子は途轍も無く驚き、同時に怒りを露にした。
「何故ですの?私がこれ程迄、遜って頼んでいるのに断るなんてどうかしてるわ!!どんな方とお付き合いを為さっているのか存じませんが、今断ったら、後悔なさいますわ。たった一回の事じゃない!貴方の御相手にも絶対に分からない、利益も上がる。これの一体何が気に入らないの?」
耀子が憤怒し、捲し立てれば立てるほど、恭司の眼は冷めた物になっていく。
「中津川社長、余り私を見縊ら無いで戴きたい。貴方を抱かなかった事を、私がこの先後悔する事は無い。何故なら貴方が与えてくれる物は、有っても無くても私には何ら構わないが、私のパートナーがくれる物は私にとって唯一無くてはならないものだ。これが私がこの商談を御断りする理由です。では、交渉決裂という事でこれで失礼致します。...ああ、どんな人と付き合っているか、
折角ですから少しお教えしましょう。私のパートナーはとても可愛らしくて、包容力のある人ですよ。そしてあまり料理が得意ではない。」
恭司は耀子に言った凪のプロフィール笑い、振り返りもせず因縁のジュニアスイートを後にした。
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