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交渉成立の証に共に一夜をと言う耀子に、後程向かうと告げ、恭司は隆雄のマンションに向かっている。
恭司は本意ではないものの、耀子の提案を飲む事にした。凪を世間に晒す訳にはいかない。その為には凪を手離さなければいけないと思っているが、心が軋んで頭が正常に動かいていないようだ。
隆雄のマンションに到着しセキュリティを解除してもらいエレベーターで上がると、降りた所に凪が待っていた。
「お帰りなさい。」
不安を隠し笑顔で出迎える凪に気持ちが揺れる。
幸せな時を思い出せば思い出す程、凪と一緒に居たいと思う。
凪と出会い、凪に触れ、眼に映る世界の色が変わった気がした。凪を失ったら自分の世界は、またモノクロに戻るのだろう。
恭司は堪らなくなり、凪をギュッと抱き締めた。
腕の中にぴったりと収まる凪を尚更手離したく無いと思う。一目見た時から恋に落ち、ようやく手に入れた唯一無二の存在だ。
「こらー!!エレベーター前で熱い抱擁やめてくれる?恭ちゃんも、凪ちゃんもとっとと中に入る!!」
隆雄に促され中に入ったが、恭司は凪の手をずっと離しはしなかった。
凪は聞けずにいた。朝から続いた会議の事や、恭司が何処へ行き、何をして居たかも。知りたい事は沢山有るのに、その顔を見て飲み込んだ。
何か変だ。何時もと違う。
短いながらも寝食を共にし、職場でも殆どの時間を共有する凪は恭司の些細な変化を感じ取っていた。何時もと様子の違う恭司に、不安ばかり膨らむ。
「んでー?どうだったのよ。あの高飛車女に、ガツンと言ってやった?」
一言も発しない二人に焦れた隆雄が恭司に聞く。
恭司は握ったままの凪の手を一層強く握り直し、一度ふぅと大きく息を吐き出すと、意を決して告げた。
「...中津川社長と付き合う事になった。彼女のマンションでこれからは暮らす。...どうする事も、できなかった。......すまない。」
「.............」
「 はぁ??」
凪は放心し、隆雄は片眉を上げ眉間にシワを寄せる。恭司はそんな凪を見ている事が辛くなり、俯いた。
「私もたまに戻るが、凪はあのまま、私の部屋を使うといい。」
「...おい何だそりゃ?ふざけるなよ恭司!!凪ちゃんを愛人にでもする気か!!」
自分を愛称では無く呼び捨てした事に、隆雄が本気で怒っている事を悟ったが、何も言い返せない。
愛人、そんなつもりはない。深く傷つける前に手離さなきゃいけない。頭では分かっているのに、口に出せなかった。心の何処かで、例え傷つけたとしても、手離さずにずっと側に置いておきたい気持ちがあるからだ。心根が弱く、穢い自分に反吐が出そうだが、それでも凪を手放したくない。
「.....愛人、...でも、良いです。恭司さんの...側に居れるなら、愛人で構いません。」
繋いだ凪の手が微かに震えていた。眼に涙を溜めてるいのに、自分に向けて一生懸命笑顔を作りながら言う凪を見ていられなかった。
その顔を見たら凪に我慢を強いて、己の欲を満たしてしまいたくなる。そんな事本意では無い。
できれば傷つけず、ずっと大切に慈しんでいたかった。
「...恭司、何でそう決めた?何であの女の言い成りになってる。お前何を隠してんだよ?叔父さんや昴君に何か言われても、押し通すなり、仕事辞めちまうなり出来た筈だ。それをしないで、凪ちゃん傷つけてまであの女の所に行く理由は何だ?」
聡い隆雄に溜め息しか出ない。今隠した所で隆雄はきっと調べ上げ、凪の耳にも入れるだろう。
「...彼女に凪の事を知られた。従わなければマスコミの餌食にするつもりらしい。これしか凪を守れる方法が無いんだ。...私は、...無力だ、...本当にすまない、」
力の抜けた恭司の手を凪はギュッと握る。どんな気持ちで恭司がいるかが痛いくらいに分かった。
「...それでも、どんな形でも、やっぱり一緒に居たいです。別れるのだけは嫌だっ!!」
涙をポロポロ溢しながら言う凪を見て、恭司は心を決めると、親指でそっと凪の涙を拭う。
君が何よりも大切なんだ。だから、
「...駄目だよ凪、さよならだ。これ以上一緒には居られない。明日からは、只の上司と秘書だ。すまない、」
凪の目をちゃんと見て、諭す様に言うと心が揺れる前にとスッと立ち上がった。
「...どこ行くの、恭ちゃん、」
隆雄は理由を知り、恭司を咎めた事を悔いていた。無力だと思ったのは、隆雄も同じだ。何もしてやれる事が見つからない。
「...おまえのホテルだ。あのホテル、嫌いになりそうだよ。」
「そ。奇遇だね。俺も嫌いになりそう。あ、そうだ!逸そ潰しちゃおっか?」
自分のホテルで恭司が誰と会うのかを悟った隆雄は殊更明るく言う。そんな隆雄に恭司は心の中で感謝した。
「...凪くん、また、...明日ね」
恭司は自分の中で区切りを付ける為に、上司である時の呼び方で凪を呼んだが、自分自身にとどめを刺した気がしてならなかった。
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