アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
105
-
決別を決めた日から1ヶ月近くが経ち、あの騒動は恭司が交際を認め、中津川グループが傘下に下る事を公にした事で一時賑わったが、それも終息に向かっている。
耀子の条件通り恭司は耀子と暮らしており、この1ヶ月ペントハウスには戻らなかった。
凪は、騒動と隆雄の心配から10日程隆雄のマンションに居たが、今は一人、恭司のペントハウスで暮らしている。恭司の居ないペントハウスは淋しく、2人で使っていた寝室は恭司の記憶を事細かく思い出させ辛くなる事から、ゲストルームで寝起きをしていた。
何事も無かったかの様に、秘書として恭司の側で一生懸命尽くす凪の姿に、自らが望んだ事なのに恭司は苦汁を強いられていた。
凪が側に居るのに、以前の様に触れる事も、抱き締めてキスをする事も、愛しく名を呼ぶ事さえ出来ずに、ただ側に居る。まるで苦行の様だった。
端から見たら何事も無い、只の上司と秘書。今は正に、それだけの関係だった。
そんなある日の夕刻、それは突然起きる。受付からの内線を受け、凪は一瞬固まった。
「...専務、...中津川社長がこちらに向かってるそうです。...受付で御止めした様なのですが、」
震える声でそう伝えると、程無くしてガチャリと扉が開き、耀子が入室してきて、凪はその姿を見て息を詰める。
「耀子さん、重役階への立入は困ります。用が有るなら受付で指示を仰いで下さい。」
まるで恋人に向けるものでは無い、冷たい目や口調で恭司が耀子に言うのを、凪は立ち尽くして見ていた。出ていくべきなのかも知れないが、頭がちっとも働かない。
「あら、大事な恋人に随分な物言いですのね。今日の恭司さんはご機嫌斜めかしら。...それとも、
相原さんがいらっしゃるからかしら?」
「...彼はただの秘書で今は何の関係も無い。」
恭司は自分で放った言葉に心を抉られる思いだった。それは凪も同じで、恭司の言葉に胸が苦しくなり身体の力が抜けていく様な感覚を覚えた。
「ええ。存じてますわ。恭司さんの従兄弟でホテルオーナーの桐生隆雄さんと御一緒に住んでいるんですよね?綺麗な顔で、次々別の方を渡り歩いて、お金持ちならどなたでも宜しいんでしょうね、きっと。」
軽蔑の眼差しを向ける耀子に凪は何も返せない。ただ、恭司に隆雄との事を誤解されたのではと、それだけが心配で、恭司を見やる。でもそれと同時に、耀子が自分の身辺を調べていた事が分かり凄く怖かった。
「止めないかっ!!用が有るならさっさと済ませて出ていって下さい。ここは部外者立ち入り禁止だ!」
「そんなに怒らないで。今日は所用で帰れないからお顔を見に来たのよ。今ここでキスをしてくれたら直ぐに帰ります。受付じゃ流石に出来ないでしょ?だから、こうして態々上がって来たの。それとも、受付より相原さんの前の......ん、」
恭司は耀子の口を塞ぐ様にキスをした。凪が見ている前でこんな事したくは無い。でも、これ以上凪を侮辱され傷つけさせる位なら、要求を飲んで1秒でも早く追い出したい。
「.......これで用は済んだのでしょう。早く帰りなさい。」
うっとりした目で恭司を見つめその頬を撫でながら、耀子は分かりましたと素直に踵を返すが、目線は凪を見ている。
勝ち誇った様な顔をしている耀子から、堪らず目を逸らして俯いた凪には、恭司がどんな顔で自分を見ているか、知る由も無かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
105 / 160