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目が覚めた凪が医務室から専務室へ戻ると、大事を取って今日はもう帰りなさいと恭司に言われ、そに従い凪は少し早いがペントハウスに帰った。
正直、耀子との事を見た後で、どんな顔をして恭司と向き合えば良いのか分からずにいたので、帰れた事にホッとしていた。
帰ってからも度々あの光景が頭を過り、無気力で風呂に入ると、そそくさとゲストルームのベッドに潜り込んだ。暫く眠れずにいたが、漸くうとうとし出した頃、ガチャリと玄関の方で扉の開く小さな音が聞こえ、途端に心臓がドキドキと早音を打つ。きっと恭司だと、凪は思わず息を潜めた。
恭司は耀子が言っていた、凪が隆雄と住んでいると言う言葉を鵜呑みにしていた。凪と隆雄がどうこうなっているとは露程も疑ってはいなかったが、この家に独りでいるのを凪が嫌ってそうしたのだろうと思っていたからだ。だから、耀子が不在の今日、このペントハウスで少しでも息を抜きたくて帰ってきた。この家で、凪との思い出に浸って癒されたい。久しぶりに凪に触れたからか、余計にここが恋しかった。
玄関にある凪の革靴を見て一瞬入るのを躊躇したが、もし、居るのなら一目でも良いからその姿を見たいという気持ちが勝り、恭司に足を進めさせる。
「...凪くん、居るのかい?」
リビングに入り声を掛けたが姿が見えず、次に寝室を見たがここにも凪は居ない。好きだと言っていたテラスにもその姿が無い事から、玄関にあった革靴は履いていた物と違うもので、やはり、隆雄の所に居るのかと、ひょっとしてと心踊らせていた自分に苦笑しながらテラスから戻ると、静かにゲストルームのドアが開き、そこから凪が出てきた。
寝間着を着ている事から、ゲストルームで寝ている事が容易に想像でき、恭司はそれが何を意味するのか、凪がどんな気持ちでこの家に一人でいるかが手に取る様に分かって苦しくなった。
「...お帰りなさい。」
きっと、恭司は自分の所に帰って来た訳じゃ無い。それは凪にも分かっていた。でも、そうだったら良いのにと願いを込めてお帰りなさいと言った。だけど、涙で前が良く見えなくて、恭司がどんな顔をしてるかは分からない。きっと困らせただけだなと思い、返って来ない返事に言った事を少し後悔した。
ただいま、凪。
口に出して言えない言葉を恭司は心の中で呟いた。そう言ってあげられたらどんなに良いか。想いが言葉になって溢れ出てしまいそうで恭司は奥歯を噛み締めて堪えた。
「...具合はどうだい?休んで居たところを起こした様で申し訳無い。凪くんが居ると思わなかったんだ。...すまない、直ぐに出て行くから、構わないで休みなさい。」
恭司が以前はこの家で使わなかった他人行儀な口調が嫌だった。それと同時に、恭司の直ぐに出て行くからの言葉が、耀子の所へ戻るかの様に聞こえて、またあの光景が頭を過り、凪の中で何かが弾けた。
愛執と妬心に支配されたまま、恭司の側へ行き、その唇を奪う様にキスをする。
誰にも渡したく無い! 行かないで!!
奪う様に願う様にされた口付けに、恭司の心は揺れていた。
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