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ペントハウスを出た所で恭司は隆雄とばったり出会した。
「...隆雄。どうした、こんな時間に。」
「ちょっと仕事が立て込んじゃってて中々抜けらんなくてこんな時間になっちゃったの。まーくんから電話もらって凪ちゃんの様子見に来たんだけど、恭ちゃんも?」
「................、」
隆雄の質問に答えられず恭司は少し目を伏せた。
「......凪ちゃんは?」
何も答えない事に何かを悟ったのか、隆雄の声がワントーン下がる。
「............眠ってる。」
「はっ、眠ってる? 意識を無くしたが正解だろ?なぁ、もういい加減にしたら?恭ちゃん、凪ちゃん可哀想だよ。...見てて痛々しい。」
鼻で笑って呆れた様に言う隆雄の言葉に生唾を飲んだ。自分のしている事がエゴだと恭司はちゃんと分かってる。本気で凪の事を思えば、秘書を辞めさせ、ペントハウスから出して自分の痕跡を消す事が一番だろう。分かっているが、出来ずにいる。凪が辛そうなのも我慢しているのも分かっているのに、それでも自分の目の届く所に置いておきたかった。
「...もー、いーや。凪ちゃん寝てるんなら、恭ちゃん鍵、開けて。」
恭司は隆雄の頼みに渋々同意し、ペントハウスの玄関まで戻ると、鍵を開けた。
「あんがと。じゃね、恭ちゃん。」
鍵を開けた所で隆雄に言われ、凪を頼むと告げると隆雄が意味深な顔で笑う。
「それってどういう意味で?...まいーや。どっちにしても、別にもう、恭ちゃんの為にやってる訳じゃ無いから。じゃね。」
そう言って隆雄は扉を開けて中に入ると、中からガシャンと施錠をした。
隆雄に凪を頼んだのに深い意味は無かった。ただ、自分が側に居てやれない変わりに、様子を見てやって欲しいと思って言っただけで他意は無い。
隆雄の意味深な発言が気になった。自分の為では無いとしたら凪の為か、それとも。
この扉の鍵は持っている。
持っているのに開ける事ができない自分の不甲斐なさに恭司は顔を顰めた。
この扉一枚を隔てた距離が大きな壁となり、今後も自分と凪を引き離すのだろう。
分かっていて、手離せない。私の残酷さに凪はどう思っているのだろう。凪の側に居てやる事も、欲しい言葉を掛けてやる事も、身体を重ねる事も、同じ朝を迎える事も。
何一つ凪の望む事をしてやれない自分が遣る瀬無かった。
それでも恭司は、開けられない扉に手を付き残酷な願いを凪に向けて願う。
......私を、ずっと愛していてくれ。
無機質な扉の向こう側に凪と隆雄を残す。
恭司はその事に、一抹の不安を感じながらもその場を後にした。
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