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玄関が開く音がした。ただそれだけの事で凪の胸は高鳴る。
恭司さん、戻って来てくれた、
このペントハウスの鍵は、自分と恭司しか持っていない。扉を開けて入って来たのが恭司だと信じて疑わず、凪は今尚怠い身体を引きずる様にして出迎えに行く。
「お、凪ちゃん。起きてたの?」
そこに居たのは恋い焦がれた恭司では無く、隆雄だった。
「......隆雄さん、」
急に身体が重くなった気がして、凪はその場にズルズルとしゃがみ込んだ。
「おっと!?...大丈夫? ......恭ちゃんじゃ無くて、ごめんね、」
隆雄は、急にしゃがみ込んだ凪を支えながら謝った。寝室のドアから出てきた時の嬉しそうな顔が、自分を見た瞬間明らかに落胆の色に変わったからだ。その顔が凪が出迎えに来たのは、恭司だと顕著に語っていた。
自分を仰ぎ見た凪は、首を振りながら無理して笑顔を作っている。その顔を見たら思う。
また、一人で泣いてたんだな。
腫れ上がった瞼が痛々しかった。
隆雄のマンションに身を寄せて居たとき、凪は毎朝出社の2、3時間前に起き、泣いて腫れ上がった瞼をアイシングしていた。
それを痛々しい顔で見る隆雄に、これで外出たらみっともないからと苦笑いを浮かべていた。
その行動が、人に見られたらみっともないからでは無く、恭司に要らぬ心配を掛けたく無いからだと、隆雄には分かっていた。
そんな凪をいじらしいと思い、そんな凪にいつの間にか惹かれていった。隆雄は恭司の為では無く、凪の為、そして自分の為に凪の側に居たいと思っている。
支えられ寝室のベッドに寝かしてくれた隆雄はその場を後にし、程無くして戻って来たその手にはミネラルウォーターがあって、飲んでと手渡してくれた。御丁寧にキャップまで開けてあるそれを、一口飲むと、隆雄にもう少し飲んでと言われてそれに従ってグビグビ飲む。泣いたからか喉が渇いてた。
「隆雄さん、どうしてここに?」
「あぁ、まーくんが電話してきて、今日凪ちゃんが会社で倒れたんだけど、自分が行っても中に入れてくれ無いだろうから行って様子見てきてって。」
確かに雅臣が来ても、自分は部屋に上げないかもと隆雄の言葉に苦笑する。雅臣はセクハラが過ぎるけど、良い人だ。それはちゃんと分かってる。明日会ったらお礼言わなきゃなって持ってたら、何の前触れも無く抱き締められて、その殊の外強い力に戸惑った。
「 隆雄さん!? 」
「...前にさ、凪ちゃんの名前の由来、教えてくれた時、...あの時、思ったんだ。恭ちゃんを優しさで包み込んであげたいって言ってたけど、じゃあ誰が凪ちゃんを包み込んであげるのかなって。もう、ボロボロじゃん。正直、見てらんない。こんなになってても、恭ちゃん凪ちゃんの事、包まないじゃん。凪ちゃん、待っててももう恭ちゃん帰って来ないよ。本当は気付いてるんでしょ?...だから、さっき恭ちゃんに抱かれたんでしょ?もう止めな。俺にしなよ。俺ならちゃんと凪ちゃんの事、包んであげられる。側に居てあげられる。ねっ、そうしよ?」
隆雄の言葉に戸惑うも、凪は首をブンブン振って拒否する。
「...言ったじゃないですか。未来まで含めた俺の全部恭司さんにあげるって、約束したんです。だから...」
「その凪ちゃんの未来に恭ちゃん居ないよ。現に、ここ開けてくれた時、恭ちゃん俺に凪ちゃんを頼むって言ったし。」
凪は隆雄の言葉に二の句が継げなかった。
「それってさ、二人に未来が合って成立するものでしょ。もう、充分頑張ったよ凪ちゃんは...。だから、これからは自分が幸せになる未来を見て。必ず幸せにするから、俺を選んで。」
絶望する凪に隆雄はキスをし、凪はそれを拒めなかった。
恭司の居ない未来に、一人で立ち向かう力がもう何処にも無いような気がした。きっと、流した涙と一緒に身体の外に流れ出てしまったのだろうと凪はぼんやり思っていた。
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