アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
116
-
只今、戻りましたと専務室に入り恭司に声を掛けると、「お帰り。」と顔も見ずに言う恭司に凪は切なくなる。
恭司さん、顔も見てくれない。本当にもうお終いかも。
「少し早いがそろそろ出よう。今日は戻らないから秘書室に伝えておきなさい。」
淡々と外出の準備をしながら言う恭司に、畏まりましたと告げ、秘書室にその旨伝えて恭司と共に会社を出た。
ハイヤーの中でも沈黙は続き、凪はその重い空気に押し潰されそうな気持ちでいた。
「...あの、...専務、......先程は」
「凪くん、今は仕事に集中しよう。プライベートな事は後でゆっくり話そう。」
沈黙に耐えきれず口を開くも、恭司にばっさり切られて泣きたくなる。商談先に着き、仕事だけはちゃんと熟そうと、凪はその悲しみを胸中に隠し事無きを得た。
帰りのハイヤーの行き先が分からず困惑する凪を他所に、恭司は何も告げず只黙っている。
ハイヤーから見える景色が今ではすっかり見慣れた場所を映し、ハッとすると、やはりペントハウスの前でハイヤーは止まり、恭司に続いて凪も重い足取りでその後を追った。
玄関ホールに着いて中に入っても恭司は何も言わない。真っ直ぐ寝室に行くとベッドからシーツを剥ぎ取り、無言のままそれをごみ袋に入れた。
その光景を凪は蒼白になり立ち尽くしたまま見ている。まるで捨てられたシーツが自分の様に思えた。
「これでお終い。」
恭司の言葉を受け、凪はその顔を仰ぎ見るも、口を開けないでいる。
お終い、
「凪くん、こちらに来なさい。話をしよう。」
凪は恭司の捨てたシーツがまるで自分の様に思えてた。汚れたから捨てる。要らなくなったから捨てる。これから恭司に言われるであろう言葉を聞きたく無かった。
約束を破ったのは紛れもなく自分で、それは言い逃れのしようが無い。恭司も耀子を抱くけれど、それは自分を守る為の事だと、ちゃんと分かってる。
拒みきれず、隆雄に縋った自分とは違う。
例え、放って置かれたとしても、愛してる、側に居たい、と言い続けた自分の行動は、恭司からしたら裏切り以外の何物でもないだろう。
ましてや、相手は無二の親友で血縁の隆雄だ。きっと恭司の心中は穏やかでは無い。
......怖い、面と向かってお終いだって言われるの、怖い。
凪は恭司の呼び掛けに応じる事ができず、その場に立ち尽くしてると、「凪、おいで。」と、まるで以前ここで二人で暮らしていた時の様に恭司に優しく呼ばれたら、それだけで泣きそうになった。自分がこれから失うであろう恭司への気持ちが、あの頃より更に膨らんでいる気がした。
ソファーまでの数メートルで、俺は恭司との間柄にピリオドを打つ決心をしなければいけない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
116 / 160