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リビングのソファー、二人の定位置。
数日前までは、こうしてこのソファーに恭司とまた二人で座れる日を心待にしていた。
いつかきっと帰ってくる。約束をした訳じゃ無い。保証が有る訳でも無い。それでもそんな日が来るのを夢見ていた。
それが、こんな形になって訪れる等とは、露程思っていなかった。
「...会社で怒鳴ったりしてすまなかった。君が出ていった後、一人で良く考えた。...凪の言った通りだよ。私は凪の気持ちを分かっている様な気になっていた。それに、愛人にする度胸も確かに無い。そうしたら、君を苦しめるだけだと思っていたから。でも、結果、曖昧なままにして傷付けて苦しめた。...本当にすまない、」
恭司の言葉に凪は手をギュッと握り締め俯いた。
「凪、君を傷付けるだけだと、狡い事をしてるって分かっていた。それでも、側に居て欲しかったんだ。秘書としてだけでも側に置いておきたかったし、この家に君に居て欲しかった。...私との事を忘れて欲しく無かったんだ。君を手離せる勇気が無かった。そうするべきだったと思う。こんなに傷付けて、苦しめて。...自分の気持ちを押し通した事を後悔しているよ。」
恭司の言う言葉が、最後の別れの言葉を言う為の接続詞に聴こえて、凪はもうこれ以上耐えられなくなった。
「...もう、いい。もう止めて!」
...お終いだって、もう会わないって言わないで!!
凪は両手で耳を塞ぎソファーの上に膝を立て蹲る。怖かった。恭司の言葉を聞くのが。隆雄との事があるからもう俺達に一緒にいる未来なんてないって諦めの気持ちだけど、恭司にはっきり言われたら、本当に全部終わっちゃうから。
「 凪、最後までちゃんと聞いてくれ、頼むから!」
「やだやだ聞きたくない!!」
泣きながら駄々を捏ねる凪の手を耳から力任せに剥ぎ取ると、握った手をそのままに恭司は言った。
「狡い事も、傷付ける事も分かってる。でも、待っててくれないか。必ず帰ってくるから。私の側に居て欲しい。居て欲しいんだ、凪に。」
その言葉に凪は目を見開き動きを止めた。
「愛人になれと言っているんじゃ無い。必ず凪の所へ帰ってくる。愛してるのは端から凪だけなんだ。凪は私の愛人で、恋人で、仕事のパートナーで、私の全てだから。だから、待っていて欲しい。」
恭司の言葉を凪は噛み砕けなかった。耳が自分の都合の言いように、言葉を変換しているのだと思った。
帰ってくると、側に居て欲しいと、愛していると、俺が全てだと。
恭司に言って欲しかった言葉を頭の中でずっと思っていたから、そう、聞き取ってしまったんだ。
でなければ、有り得ない。約束を破り、隆雄と関係を持った自分に恭司がそんな事、言う筈が無い。穢い自分が、貰える言葉では無いと思った。
呆けている凪を恭司はそっと抱き締めた。
「...側に居てくれ。私を待っていてくれ。凪、」
涙が溢れて言葉にならなかった。耳元で言われた言葉が胸の奥に染み渡って、今迄の傷を癒していく。その傷は恭司にしか治せない事を実感した。
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