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1.捕まえろ!
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「ー佐山さんって、普通ですよね」
後輩は言った。
「あぁそうだな普通だな普通で悪かったなどうせ俺は普通だよ普通のただの面白みのないサラリーマンだよ」
「そこまでは言ってませんよ」
「うっせ黙れ口答えすんじゃねぇよ」
「口答えですか、じゃあ俺は上司であるあなたの溜まったストレス鬱憤を頷きながら笑顔で黙って何も言わずに聞け、と」
「あー、うん、そうだな。うん、それだな、それがいいな、」
「パワハラだ」
「ー何言うんだこの偽善者胡散臭い笑顔いっつも浮かべやがってウザいんだよちゃんと仕事しろ」
「失敬な。仕事してますよ、俺が期日内に必要書類揃えなかった時がたったの1度でもありましたか?」
「あったな」
「いつ」
「嘘だ」
「…なんて大人気ない」
「ーなんで呆れるんだよそこはつっこめよ俺が恥ずかしいだけだろう……!!?」
「俺のことをつっこませて同じように恥ずかしい思いにさせようとしてたんですねなんて人だ最低だ」
「ああん!?最低だぁあっ!?上司に向かってなんっだその口の聞き方はっ!!!俺が教育し直してやる!!」
「結構です。遠慮させていただきます」
「遠慮はいらねぇ黙って俺に着いてこい!!」
「どこかで聞いたことがあるセリフですね。どうでも良いですが、立ち上がらずに席に座って下さい佐山さん」
「誰がお前の言うことなんか聞くか…!」
「他の人の邪魔になるでしょう。ここ家じゃないんですから、居酒屋なんですから」
「…っひく、…うっせえ黙れ!んなこと関係ねえんだよっ!」
「はいはいお酒も飲み過ぎですからそこら辺でやめておきましょうね」
「っ、ー触んな酒返せよっ!」
「返しませんよ。ほら、取れるものなら取ってみてください」
「舐めんなこの……っ!!」
「…あれ、どうしたんですか?取れませんか?俺少し上に上げてるだけなんですけどおかしいな」
「…っ!こっの、…調子に乗りやがっ…ぅ、…て、…ひくっ、……酒、……返せぇ……ぇ…っ、ひくっ、」
「…今すぐにでも倒れそうな体して、何言ってるんですか」
「そ、んなこと、ひくっ、ない…、…全然、平気だっ、つってんだよ、後輩…」
「返せませんね、そんな状態のあなたには」
「俺の言うことが聞けねぇって言うのかよ……っ!!!ーぅぷ」
「ほぅら言わんこっちゃない、佐山さん歩けますか」
「歩、けねぇっ、つーのこの馬鹿!!」
「うわ、あっぶないなぁ人に向かって拳奮わないで下さいよ乱暴なんだから」
「うっせ…、ひくっ、てめぇが俺の体触ってくるからだろ、」
「人聞きが悪いですね。誰のために俺がこうして肩に腕まわして重い体引き連れて酔っ払い担いでいると思ってるんですか」
「知らねぇな、良いこですよアピールか何かか」
「…違いますよ何でそんなこと」
「じゃあ他に何があるって言うんだよ俺みたいな奴の上司の愚痴聞かされてなのに俺を担ぐ意味が分からない」
「誰だってそんな状態で放置して出るなんてそんな人の悪いことできませんよ」
「は、どーだかな、お前はまだ若いから知らないんだろうがな、世界は広いんだよ、お前の思ってないようなとんでもなく怖い奴も事もあるってことだ」
バン…ッ
「ーすみません、○○○までお願いします」
「…お前は分かってないだろうがな、この世はな、広いんだぞ、あぁ?突然思いもよらなかったことが急に起こるんだ、怖い世の中だよ本当に」
「何急に現実味帯びたことを。ネガティブになりましたね急に」
「ネガティブにもなるに決まってんだろ後輩、俺がどんな思いで、ひくっ、…俺がどれだけ酷く傷つき泣いたと思って」
「泣いたんですか?」
「いいや」
「…なんだ」
「なんだとはなんだこの後輩!!」
「あー立ち上がらないでいいから先輩危ないですよ」
「…っひく、やっぱりお前には俺の気持ちは分からないんだ…っっ」
「何ですか急に。今度は乙女モード入りましたか」
「ー誰が乙女だ…!」
「で?気持ちって?」
「…。だから…、俺がずっと一緒にいた人に突然、…別れようって言われる……その、…辛さだ…、」
「ー何そのリアルな感じ」
「リアルだからだろ…っ!!この馬鹿…!!やっぱりお前は何もわからないんだなずっと一緒にいた人に別れを切り出され、家ほっぽり投げて他の男のとこに行かれる俺の気持ちが……っ!!」
「ーなにたった1年くらい一緒に暮らして結婚してただけでずっと、なんて言ってるんですか、くだらない」
「てっめぇ枷(カセ)……!!」
「何ですかまたパワハラですか、良いでしょうこれからそれを証拠としてこの録音機に録音して明日、」
「何でそんなもん持ってんだよ…!!」
「とりあえず、その人のことはさっさと忘れてヤケ酒ももうやめてくださいよ」
「簡単に言うなっ!お前には、わかんねんだよ俺の気持ちなんか…っ、」
「またそれですか…」
「お前には分かんないんだよ…!独り身の寂しさが!急に襲う喪失感が…っ!!」
「俺も独り身ですが」
「お前は結婚してなくても毎日違う女連れ込めるし寂しくなくて良いんじゃないかそれと俺を一緒にするな…!」
「本当に人が大人しく黙って聞いていれば好き勝手言いますね、言っておきますが俺はそんなやりチンではありません」
「嘘だね…!そんな顔してもてねぇとは言わせねぇぞ!!」
「モテないとは言ってない」
「ーうぜぇ!!殺す…!!」
「パワハラかと思いきや今度は殺人ですか、どんどん皆から軽蔑されますね」
「冗談に決まってんだろ馬鹿っっ!」
「あ、ほら家に着きましたよ」
「…お前といると無駄にエネルギーを消費している気がしてならねぇ…」
「でも、そのエネルギーがあるくらい元気ってことなんですから、自分で思ってるより案外離婚の件について落ち込んでないんだと思いますよ」
「…馬鹿言え。俺がどれだけ辛かったか」
「でしょうね。倒れそうになるまで飲もうとするんですもん」
「そうでもしねぇと…、頭から消えねぇんだよ…」
「なにがですか?」
「だから…、それまでの記憶とか、思い出的なものが、」
「たった1年の結婚で」
「ーうっせぇな!たったたったって、お前にはわかんねぇっつってんだろ!!1年だろうが半年だろうが一緒に暮らしてたことに変わりねんだよ!!」
「ふーん、半年も一緒に暮らせば先輩その人のこと思い出してつらい想いするんだあ」
「ったり前だろ…っ、一緒に侵食共にするんだ、そう簡単に消えるわけない」
「へ〜ぇ。良いこと聞いちゃったな」
「は?」
「ほら家に着きましたよ、先輩」
「…ぁ、おぅ」
「…」
「ん?何でお前俺の家知っ」
「前来たじゃないですか」
「…そうだったか?」
「ほら、同僚の菊地とか堀野とか」
「あ〜菊地ねぇ」
ガチャ
「そう言えば、菊地が今度先輩と一緒に2人で飲んでみたいって言ってましたよ」
「まじかよ、俺と飲んでも何も面白みねぇのに」
「えぇ、ですからそう言っておきました」
「…てめぇなっ!」
「嘘ですよ」
「なんだ」
「でも、2人で飲むなとは言っておきました」
「何でだよ、意味わかんね、あぁアレか、もしかして俺と飲めるのは自分だけとかいう特等席取っときたいのか可愛い後輩だなあおい」
「…そうですか」
「何だよ…。ここは流石につっこめよ。ー知ってるよ、お前が俺のことそんなふうに思ってないことくら」
「そんなことないですよ」
「は?」
後輩は、不意にネクタイを下げる俺の元へ近寄って、俺の顔をその整った顔で見つめた。
「なに、…どうし」
「あなたの言うとおり、俺はあなたと2人で飲めるその特等席を、誰にも譲りたくないって言ってるんですよ」
「…は?」
「分かりませんか?俺の言う意味が」
「わ、…からねぇ、けど」
「けど?」
「…いや。何。近い……ん、だけど」
「分かりませんか?その意味が」
「わからー」
チュ
「ー」
「…これでもまだ、分からない?」
固まる俺の目の前でそいつは、…枷は、にっこりと、やはり偽善者の笑みで笑うのだった。
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