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63.俺はモノじゃない!④
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ー
「先輩、ただいま」
「……」
「…先輩?」
「……」
「…あぁ、ソファで寝てたんですか。またクッションしっかり抱いて…」
「……」
「……先輩。…もう少し、待ってくれませんか…?…もう少し、…もう少しだけでいいから、…俺に時間を下さい。…酷いことしてるって分かってるけど…ごめんなさい…もう少し時間を下さい……。こんなことして、先輩にこんなことして…本当にごめんなさい………ごめんなさい、ほんとに…ごめんなさい……」
「……」
「…大好きですよ、……あなたのことが…………他の、何…よりもーーー」
「…」
ちゅう…
ーーーーーーーーー
ーーー
「ー先輩、行ってきますね」
「……」
「そんなむすっとした顔しないで」
「……うっせ」
「…。…話すくらいならいいから。とりあえず」
「…ーえ?」
「電話くらいなら、山野さんでも、夏川さんでも、話して良いですから」
「…。」
「本当に、良いですから…。でも、鎖はまだ、外せないから」
「……」
「…ごめん、先輩」
「……」
「行ってきますね」
ちゅう…
ーばたん
…………。
……何なんだよ……、…あいつ…
あんなふうに謝られたら、責められないじゃねぇかよ……
何も言えねぇじゃねぇかよ…
ムカつく……ムカつく……っ
「…人の寝てる時に…勝手にキスなんか……やりやがって……」
……ズルい、…ずりいよ…
…あんな奴……あんな奴……
卑怯だ……、…卑怯過ぎるっ……
「嫌いだ………っ、嫌いだよ……!あんな奴……っっ…あんな奴っっ…」
………………ーーー
………ッーー
ーーーーー
ー
「はあ……もう昼か」
作り置きされていた昼ご飯を食べ終えて、洗い物を済ませた俺は、ソファにボフッと腰を落とした。
そうしてふと、携帯を手にして、電話くらいなら…と言った枷の言葉を思い出した。
何と無く電話帳を見るけれど、でも、特別誰かに掛けようと言う気にはなれない。
そもそも、皆仕事中だと思うし、それに、何の話ってわけでもないし…でも。
ーいや、…そうか。
……夏川さん。
篠坂に掛けることはまずあり得ないし、ゆずきも枷は嫌ってるし
山野でも良いけど、よくよくこの状況を知ってるのは、やっぱり夏川さんだと思うし…
ー…〝何やってんのあんた!?〟
……。
…あの人が来なかったら、俺は、篠坂に……呑まれていたんだろうかー
夏川さんには、お世話になってしまった…。関係ないのに、俺たちの中に巻き込んでしまった。
…連絡、入れといた方が良さそうだよな。
…
プルルルル…プルルルル
「………」
プルルルル、プルルルル…プルッ
「ーえっ!、佐山さん…っ!?」
ビク
「どうして…っ?、えっ?!、電話?全然繋がらなかったのにっっ」
「…あ、ごめんなさい、それは…ちょっと…色々…ありまして」
「…佐山さん…もしかして今も、あの時枷が持ってきた鎖で、繋がれてます…?」
「……ぇ…と…」
「あぁ、別に良いんです、言いたくないなら。すみません、気を遣えずに」
「ぇ…あ、いえ……」
「大丈夫ですか?あれから、何もないですよね?あの男とか…来てませんよね?」
「あ、はい、…すみません。色々と、迷惑をかけてしまって…。本当に…」
「良いんですよ、俺も、血は見たくありませんからね」
「血?」
「枷…あのまま佐山さんが何か色々されてたら、手段選ばないと思うし」
「……すみません」
「佐山さんが悪いと言ってるわけではないんですよ。」
「でも…俺が発端ですし。家の扉を開けたことから、全て俺の…俺の軽はずみな行動で…」
「佐山さん」
「、…は、はい」
「何であの時、俺が、駆けつけた時、抵抗してなかったんですか?」
「…っ、…そ…れは」
「枷と重なって見えた…って、どういうことですか?あの時の枷…って、アレなんですか?」
「……。」
「言いにくいのなら、良いんですけど…」
「すみません…」
「…え?」
「……すみません…」
「謝られても…」
「………………似てたんです」
「え?」
「枷と…あの男…篠坂って言うんですけど、……2人……すごく似てたんです」
「…似てたって」
「顔が、とか、性格が、とかじゃなくて…あの日、…俺を襲った……あの夜の枷に……あまりにも篠坂が、ダブって、同じに見えてしまって」
「襲った…?ーあ、そうか、佐山さんって、枷に襲われて付き合い出したんですっけ」
「………その言い方酷くないですか」
「え?…あっ、す、すみません、ワザとではなくてっ!、」
「…。…目が、本当に似てたんです。似すぎて、振り払えなくて…。枷を傷つけるようで…。あの時の枷に、同情してしまったというか…」
「…」
「…ごめんなさい。言い訳に聞こえますよね。俺も、本当サイテーだって、分かってますし」
「…でも、あなたが好きなのは、枷なんですよね?」
「え?」
「別に枷じゃなくても、誰でもいいとか、そんなんじゃないんですよね?」
「っ、ー当たり前です……っ!当たり前です…!枷じゃなきゃ、嫌に決まってます!だから今だって、鎖で繋がれても、おとなしくこうやって!」
「……」
「…、…ぁ」
「…やっぱりまだ繋がれてますか」
「…。俺が、悪いから…。あいつは何も、悪くないから」
「でも、何もせずに、あいつにやられるまま、黙って繋がれ続けるんですか?」
「え…?」
「悪いのがどっちとか、それも大切だと思うけど…だからって、家に閉じこもるのは、違うと思います。枷が苦しいのも分かるし、佐山さんが苦しいのも分かるし、…だけど、そこから抜け出すには、動かないと」
「動く…?」
「ええ…。そもそも、こんなことになってしまったのは、何が原因ですか?」
「え…?だから…それは、俺が勝手に言いつけ破って、ドアを開けて…」
「そうじゃなくて、もっと他にあるでしょう」
「え?」
「あなたに言い寄る男が現れてる……そのことこそが、最も重要な、根本的な問題では?」
「……ぁ、」
「このまま…放置する気ですか?あの男のこと」
「………いや…」
「このまま枷の指示通りに家に居続けたとしても、意味なんて何もないですよ」
「……」
「佐山さん。これは、あなたの問題ですよね」
「、…え?」
「枷がどうとか、枷に言われたから大人しくしてるとか、そんなのおかしい。枷は関係ない。これはあなたの問題だ。あなたが自分から動いて、はっきり相手に伝えること伝えなきゃ、いつまで経っても、現状維持のままですよ」
「ー…」
「佐山さんのこと好いてる人なんでしょ…?だったら、佐山さんがちゃんと話さないと…。枷が怖いからとか、そうじゃなくて、それでも、相手に気持ち伝えないと。そうでないと、彼はあなたをずっと追ってくる。そうすれば、枷も不安になる。だからあなたはそんな状態になってしまう」
「……」
「…佐山さん、どうにかして、あの男と会って下さい」
「え…?」
「電話でも良いけど、でも、会った方が俺は良いと思う。それで、佐山さんがちゃんと、今度は押し倒されてもちゃんと抵抗して、それから正直に、その人に言葉を伝えてください」
「…、…そ…れは」
「いつまでも甘えないで下さい、佐山さん」
「…。………え…、」
「枷にばかり、頼ってはいけませんよ。確かに枷に任せておけば、大抵のことはどうにかなるし、従っちゃうのかもしれない。でも…だけどこれは、枷にも解決できない。枷には、解決できない」
「…」
「…あなたが動いて、気持ち伝えて、きちんと自分で相手押しのけなきゃ、どのみちこれから、またこういうことがあった時に、同じことの繰り返しになってしまう。だったら、今動かなきゃ…。あなたが自分から、行動しなきゃ…何も変わらない」
「……夏川さん…」
「俺は、枷と佐山さんが仲良く幸せなら、それでいい。でも…俺は、弱気になって、枷の指示通りに大人しく繋げられる佐山さんを見てると、どうやってもそんなの、幸せとは思えない…」
「…」
「だから…そこから抜け出す為にも、自分の為にも、枷の為にも……動いて。佐山さん」
「…、…」
「困ったことがあれば、枷にも言えないようなことであれば、…俺が、またあなたのところに、すぐ駆けつけるから…」
「……夏川さん、…でも…俺は、あなたにそこまで、迷惑かけられませんよ」
「…迷惑じゃないから」
「え…?」
「佐山さんは、力ないみたいだし、あまり友達もいないみたいだし、だったら、俺があなたを支えるから」
「……」
「大丈夫……もし何かあっても、俺はあなたのこと、枷以外の男に、傷つけさせたりなんか、絶対にーー」
「…夏川さん」
「はい?」
「あの……どうしてそこまで、してくれるんですか…?」
「え…?」
「…俺は、とても嬉しいけど、本当に、ありがたいけど、でも、何でですか…?厳しくしたり、そうやって優しくしたり、何で夏川さんは、いつもそうやって俺に接してくるんですか?」
「…、それは」
「俺と枷は、付き合ってて、それで夏川さんは、昔の枷と関係があって、それで、なのに、俺にどうして、そんなふうにしてくるのか…俺にはよく」
「…佐山さんのことが、好きだから」
「ーえ?」
「……あ、いや、えと、…あの…も、勿論っ、と、友達の、意味としてですけどっ!、」
「え…?あ、あぁ、…友達…の」
「ーあ、当たり前じゃないですかっ!俺がどうして、佐山さんのことを、そんな、好きだなんて、あり得ないこと、そんなこと思うわけないじゃないですか、…げほっ、ーげほげほごほげほっ!」
「あ、いえ、ですよねっ。でも、ちょっと戸惑いました、すみません」
「え…?」
「あの日、夏川さんが駆けつけてきてくれた時、枷…変なこと言ってたから」
「…」
「…夏川さんも俺のこと好きなくせにー…って、そう言ってたから、…少しですけど、ちょっと、気になってたというか、」
「ぁ…」
「ーでも、良かった。違って」
「……え?」
「枷、あの時おかしかったですもんね。あることないこと、勝手に口をついて出ちゃったのかなぁって思ってたんですけど、やっぱりそうでしたか。はあ〜良かったぁ〜」
「……良かった、ですか?」
「ええ」
「…」
「だって、本当にもし夏川さんが俺のこと好き〜とか言ったら、枷、もう二度と、夏川さんとは会わせてくれないと思うし」
「…」
「俺…ほんと、友達少ないから…夏川さん1人でも減っちゃうと、俺…寂しいですし」
「……」
「ーあっ、べ、別に俺、図々しいことが言いたいんじゃないんです…っ!、ごめんなさいっ!俺、何か自己中発言をしてますよねっ、」
「…そんなことないですよ、」
「…。夏川さんは、厳しいとこもあって、優しいとこもあるから、何だか尊敬します」
「そんな、こと…」
「世話ばっかりかけて、すみません。俺のが年上なのに、本当に、気遣ってくれてありがとうございます」
「…気遣ってなんて…」
「夏川さんのおかげで、俺も色々しないといけないと思いました。そうですね、…俺は、動かないと駄目なんですよね」
「佐山さん…もし本当に、何か起こりそうだったら、俺に連絡して下さい。ていうか、俺が隠れて、近くに潜んでた方が…」
「そんなの駄目ですよ」
「え?、」
「言ってくれたじゃないですか、自分で押しのけろって」
「……」
「俺、1人でやらなきゃ。枷にも、夏川さんにも、頼ってたら俺は駄目なんです」
「…」
「ーこれは俺の、問題だから」
「……佐山さん」
「本当に、ありがとうございます。また、連絡しますね」
「佐山さん、」
「はい?」
「…気をつけて。」
「え?」
「絶対、何もされずに、帰ってきて」
「……」
「……」
「…夏川さんって、…やっぱり枷のこと好きなんですか?」
「ー…。…は?」
「だって、…なんかすっごく心配してくるし、何だかまるで、枷がそれだけ好きなようで」
「、はあ?!何でそうなるんですか?違いますよ!」
「そうですか…?枷が俺を好きだから俺に色々心配してくるんじゃ…」
「ーはああ?違いますって、だからっ、だから…、俺が好きなのは……っ!」
「…」
「、……」
「え、誰ですか?」
「…今は、いません」
「?何ですかそれ」
「と、…とにかく気をつけてっ!用心して、向かってくださいね」
「はい、分かってます。ありがとうございます。夏川さん」
「いえ。じゃあ、また今度」
「はい。じゃあ、失礼します」
ーピッ
……そうか…
そうだよな、…このままじゃ、駄目なんだよなーー
ーー
ガチャ
「枷」
「え、先輩、どうしたんですか?お迎えですか?」
「おかえり」
「、ただいま」
「枷、」
「何ですか?」
「お願いがある」
「…お願い…ですか。何でしょうか」
「……明日、夜、この鎖、外してくれ」
「ーー駄目です」
「っ、……どうしてっ!?」
「それはこっちの台詞です。どうしてです?何故?何の為に?何故夜?何で急にそんなことを?」
「…っ、…頼むよ」
「駄目」
「俺っっ、絶対戻るから!だから!」
「ー駄目」
「…お前、もう少し時間くれって言ってたけど…それ、いつまで必要なんだよ。いつになったら、解放する気になるんだよ…っ?、明日の、一時間だけ、それだけでいいから、俺を解放してくれ…」
「明日は外さない」
「だったら、明後日っ!」
「明後日も外さない」
「嘘つき!!」
「嘘なんてついていない」
「もう少しってどれだけ待てばいんだよ!いつなら良い!」
「誰も解放するなんて言ってない」
「なに…っ?!」
「俺は、考える時間を下さいと言っただけです。誰も解放するなんて言ってない」
「…枷っ、俺……やらなきゃいけないんだよ」
「何をですか」
「…会わないと。篠坂に…」
「何ですって?」
「、会わなきゃ、駄目なんだよ」
「ー絶対に行かせない。ますます解放なんてしませんよ」
「ーー枷…っ!そうじゃない、会いたくて会うんじゃない…!言わないと!」
「何をです。断りの話なら電話でどうぞ」
「電話じゃなくて、会って、会って話さないと、やっぱ何か…失礼じゃんっ、」
「失礼でも何でも良いですよ、大体あなたを俺が、自分からはいどうぞって、他の男の、しかも自分の大切な人好きな人のとこになんか、そう言われて行かせると思いますか?」
「っ…、…でも」
「誰に何をどう言われたのか知りませんが…、俺はそんなこと絶対許しませんよ」
「〜枷……っ!」
「あなたが泣こうが、喚こうが、俺は絶対解放しない」
「っっ何でだよ…!!この分からず屋っ!!頑固野郎!」
「何とでもどうぞ。俺はあなたを奪われるくらいなら、監禁なんか容易いことだ。それ以上のことだってできる」
「…奪われるって!俺は別に、そんなたらしじゃねえよ!俺はお前が好きなんだから…ッ!」
「でも、あなたは弱いんですから、そう思ってたとしても、相手にすぐ力づくでそんな言葉なんか跳ね除けられる」
「っ、だったらそれを押し返す!」
「ー無理だ。あなたは無理。華奢な上に力もないくせに、テキトーことばかり言って俺をそれで丸め込めるとでも?」
「ーーっ、じゃあどうすればいいんだよ……ッ!」
「だから何もしなくていい」
「そんなわけにいかないんだよ!」
「どうして」
「俺たちは…こんなんじゃなかったじゃん…!!普通に、繋ぐとか、解放するとか、こんなんじゃなかったじゃんか…!」
「…」
「戻りたい、枷……戻りたい、俺…」
「……」
「…お前のこと好き、……好き。だからこんなことだってされてる……だけど、……でも、…全然、……何か違うじゃんか……!!」
「…」
「………好きだからだよ、……好きだから、俺……お前と……ずっといたいから、…だから……お前抜きでも、俺だけでどうにかしねえと……」
「…そんなこと思わなくたっていい」
「ー駄目なんだよ!」
「…」
「守られてるばっかじゃ、駄目なんだよ……っ、…篠坂にちゃんと言わないと…俺……逃げることになる」
「…ー」
「………お前といたい。……前みたいに、お前と一緒にいたい。…だから、だから………だからだよ、枷…」
「…」
「……信じて……枷………分かって…」
「……」
「もし何かされたら、すぐ呼ぶし!」
「…」
「ただ、断るだけだしっ、普通に、居酒屋とか行くしっ、」
「……」
「酒勿論飲まないしっ、時間に限りがあるんだったらそれでもいいし、」
「…」
「俺っっ、…絶対お前のこと、裏切らない!絶対、話すだけだから…っ」
「……」
「もし、何かあったらっ」
「…分かりました」
「ー………え?」
「……分かりました」
「…本当か?」
「但し、1時間…いや、30分以内に帰らなかったらまた繋ぎます」
「…分かった」
「触られても駄目。分かりましたね」
「…分かった」
「そこまで言うなら、信じてみましょう?先輩のことを」
「…、…」
「もし何かまたおかしなことになるようなら、俺も色々考えますからね」
「…、…の、望むところだ…」
「ーー言いましたね?」
「…、っ」
これから俺は、自分の為に、枷の為に、この重い鎖を断ち切ってみせる。
そして俺は、植え付けてしまった枷の不安をも、俺が必ずきっと、安心に
変えてみせる……ーー!
これは俺と彼の、信頼性を賭けた勝負なのであるーー。
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