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困ればいい。
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「また喧嘩したの?」
「あ?」
HRぎりぎりに教室へやってきた友人の姿は、決して元気そうではなかった。
入学してまだ数か月という期間内で先生にばれた喧嘩の数が5つを超えて風紀委員に反省文を提出させられたばかりの冬貴の額に大きなガーゼ。
つい先日には右頬にあったガーゼが今度は額に移動している、昔から短気だし売られた喧嘩は絶対買うし…冬貴は喧嘩をしない一週間というものをここ数年は経験していないだろう。
目立つ外見のせいだろうけれどさ、もう少し何とかならないのか?呆れながらに俺の席の前で足を止めた冬貴を見れば鼻で一つ笑われる。そんな怪我、痛くも痒くもないってか?冗談、見ているこっちが痛いっての。
「不可抗力だ、上級生の先輩様が手を出してきやがったから返事代わりに殴り返しただけだっつーの。」
格好いい笑顔だと思う、不敵かつ不気味な笑顔。口角を上げている唇に相反するみたいな瞳は右目だけ細められている。
喧嘩が楽しいっていう冬貴の気持ちを理解しようとは思えない、俺は人を殴る勇気もないし度胸もないし力もない。おかげで平凡に生きていますよ。
しかし…上級生相手に喧嘩だなんて。目立つ外見のせいで起こったんだろうなって安易にわかる。だって冬貴は俺と同じで部活入ってないから上級生と関わるタイミングがかなり限られる。
そうなると、今までの付き合いで理由が外見だとわかる。目立つ如何にも自分は不良で喧嘩に自信ありますオーラ振りまいていれば…そうなるよな。
でも風紀委員に目をつけられてから速攻で次の喧嘩をしてしまうあたりが冬貴らしいというべきか…褒めてない、全然褒めてないけれど。
「その結果、相手は?」
「…ま、運がよけりゃ生きてんじゃね?」
首を傾げ赤い髪をかきあげては、俺に力を抜いて笑った冬貴はそれ以上何も言わず席に向かおうと足を動かしたついでに俺の頭をポンポンと軽くたたいた。
子供をあやすようなその掌の力加減に「喧嘩の時もこれくらいで殴ってあげてほしい」とつい思ってしまった。だって運が良ければ生きているってことは、意識飛ばした相手を放置したってことじゃね?
「野蛮な奴。」
席についた冬貴を見ていたら、いつの間にか俺の机に頬杖ついて冬貴のことを汚いものでも見るような視線を投げかける夏風がそこにはいた。
夏風は基本的に真面目だから冬貴の暴力も春太の夜遊びも嫌いだ、だからその二人とは永遠に理解できないといつだったか言っていたのを冷え切った瞳を見て思い出した。でもだからと言って秋雅とも仲良くなる気がないらしいけど。
言いたいことも仲良くなれないというのも分かってやっているつもりだけど、その瞳の温度だけはたとえ俺に向けられていないにしろ気持ちのいいものではなかった。
冬貴だって本当なら喧嘩が好きというわけじゃない、だけど嫌いでもないから売られたら買うだけだ。家柄や見た目で損している、それだけ。中身はいい奴。
「夏風、あんまり言ってやるなよ。」
「…」
それでも夏風は楽しくなさそうに口をへの字に曲げて俺を見た、ただし瞳はさっきのような冷たさを失っていた。この瞳は知っている、先に言ったことや行った行動に対して「俺が悪いのか?」と良し悪しを教えてほしいという時によく見かける。
付き合いが長いといろいろ得するものだ、外見なんかで判断していたら知らずに誤解して終わってしまうところが見えてくるのだから。
「喧嘩を買った冬貴も悪いし、ストレートに言う夏風も悪い。」
「……暦が言うなら。」
それだけ言って、夏風は体をくるりと反転させ教卓のほうを向きながら今度は自分の机で頬杖を始めた。
大きめの背中がいつもより丸まっているあたり、拗ねたかもしれない。俺より図体でかいくせにたった一言で拗ねるなんて見かけ倒しもいいところだよ。そう、こういう夏風の一面だって話すようになってから知った部分だ。
とりあえず今は何も言わないでおこう、昼休みにでももう一回話をしよう。夏風にとって今は何が悪かったのかじっくり考える時間になるだろう。
やれやれ、朝からいろいろと友人のせいで頭が忙しいよ。
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