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確信する
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何度か、メールを送った。
重くならないよう、責められていると感じられないよう、何度も文章を考えて。
電話をかけようか、とも考えたが、もしアキラが数多くいる友人宅で既に眠っているとしたら、と考えると電話は躊躇われた。
というより、一番考えたくない考えを引き寄せてしまいそうで、ただ携帯を握りしめ、リビングでアキラを待つ。
帰ってきてくれ、帰ってきて。
まさか、事故とかじゃないよな。慌てて周囲の事故情報を検索する。何事も起こっていないことを確認し、安心すると同時に、誰と一緒なんだろうと考えると胸の苦しさに息が止まりそうになる。
リビングのソファの上で膝を抱えたまま、狂いそうな夜が明ける。朝日の眩しさに思わず顔を伏せたままで、さらに時間は過ぎていった。
何時だろうと、時計を確認するため顔を上げた瞬間、玄関からドアの鍵を開ける音がした。
帰ってきた!
その思いだけで足を運ぶ。玄関に着いたときには、ちょうど靴を脱いだアキラが顔を上げ、こちらに気付く。
───その時のアキラの顔を見なければ、よかった。
アキラは、明らかに『しまった』という顔をした。
すぐにその表情は消え、いつものニヤニヤ笑いを浮かべる。
「ナニ?ご主人様をお出迎え?奥さん」
何か、返さなければ、動揺していることを気付かれてしまう。俺が“気付いた”ことを気付かれてしまう。
「・・・昨日は、ごめん。アキラが心配してくれてるのに、嫌な言い方して」
謝ることで、気持ちを誤魔化す。アキラに気付かれたかどうか、気にするほどの余裕はない。
「もう、いーよ。リョウにはリョウの考えがあるんだろうし、オレが口挟むことじゃねえよな。・・・オレ、今日は1限から外せねえんだ。荷物取りに来ただけだし、そろそろ行くな?」
俺に何も言わせないかのように、捲し立てられ、慌ただしく自分の部屋から鞄を持ち出し、そのまま出ていってしまう。
何も、言えなかった。
アキラは、昨日俺以外の奴と寝たんだ───
横を通りすぎた時に漂ってきた香りに、それを確信させられる。それは紛れもなく、甘ったるい女物の香水だった。
それ以降の記憶は曖昧な部分が多い。
自分も大学に行かなければと、家を出たのは覚えているが、まともに講義を受けられていたのかどうか定かではない。
幸いにも親しくしている人間はいないから、声をかけられ不審に思われることはなかっただろう。
夕方、家に帰ると自分の部屋に閉じ籠る。泣きたいのに涙が出ない。
そう言えば、なんで、泣きたいんだっけ?
次の瞬間、猛烈な吐き気に襲われ、トイレに駆け込む。
昨日の昼から何も食べていないのだから、何も出てくるわけはなく、胃液と唾液をずっと吐き続けた。
胃液が喉を通ると、自然に涙が滲む。それをきっかけに、泣けなかった涙がどんどんと溢れて止まらなくなる。
この感覚には覚えがある。中学の時、人付き合いの悪さから孤立してイジメに繋がり、精神的に追い詰められていた時と同じだ。
あの頃は、時が過ぎるのを待ちながら、うわべだけでも人付き合いを覚えて周りと上手くやっていくことで、なんとか折り合いをつけることができたが、今回はどうすればいいのか全くわからない。
苦しすぎて苦しすぎて、アキラのことを考えることすら、心が拒否していた。
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