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惨状
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震える手で、鍵を開ける。
玄関の開ける音が、やけに大きく響いた。
「・・・ただいま」
かすれた声には、返事はない。
なぜか足音を立てないように、リビングに向かう。
昼間というのに、部屋の中は薄暗かった。カーテンが閉じられたままなのだろう。
───リビングは、思わず、息を飲むほどの惨状だった。
「アキラ・・・?」
部屋のあちこちに、黄色やオレンジの物体が散らばっている。ソファの下に敷いた毛足の長いラグの上や、キッチンのカウンター、ローテーブルの上も、見るも無惨な状態だった。
オムライス、だったのだろうか。皿の欠片も散らばっており、ケチャップの甘酸っぱい匂いも広がっていた。
ソファの向こう側にアキラの頭部を見つけ、皿の欠片に気を付けながらアキラに近付いていく。
ソファの背にもたれたアキラの横には、二人の同居記念に二人で選んだ観葉植物の鉢が転がり土が散らばっていた。
「アキラ、ごめん、携帯、音消してて、・・・気づかなかった。心配かけてホントにごめん」
聞こえているのかいないのか、アキラの反応はなく。
「アキラ・・・?」
外から聴こえる微かな街の生活音だけが、リビングに響き渡る。
沈黙に耐えかねて、部屋の片付けを始めようかと思ったと同時に、アキラの低くかすれた声が聞こえた。
「どこ、行ってた」
なんとなく、成り行きとはいえ八嶋さんの家にいたことを後ろめたく感じるが、上手く嘘をつける自信もなく、正直に話すことにする。
「気分転換に、外ぶらついてて、そしたら、たまたま他のバイト帰りの八嶋さんに会って」
八嶋さんの名前が出た瞬間、アキラの体がビクッと揺れる。
「・・・八嶋さんに顔色悪いから休んでいけって言われて、それで八嶋さんちでちょっと休ませてもらってた」
そこまで言い切ると、アキラの様子を窺う。怒っているだろうか、呆れているのだろうか。
「・・・それで?」
アキラの低い声が更に低くなった気がした。
「その男に乗り換えるのか?シッポ振って付いてって、寝てきたってか?その男の方がいい思いさせてくれたか?」
アキラの言っている意味がわからない。
何故、そんなことを言う?
俺が、俺が、八嶋さんと浮気をした?
アキラから、八嶋さんに乗り換える?
何故、そんなことを思える?
「お前の性感帯開発してやったの、オレなのに、その体を他の男に抱かせたんだ。気持ちワリい。ホンっトなんなのお前。オレがここまでしてやってんのに」
アキラの中では、俺が八嶋さんと浮気をしたことは、確定らしい。どんどん続くアキラの暴言を止めることもかなわず、アキラをぼんやりと見つめる。
俺の頭を更に混乱させたのは、アキラの首と肩の境目あたりにあった、シャツに見え隠れしていた、赤い跡。
それの意味するものは、あまり性知識のない俺でも知っている。アキラが時々俺の胸元に散らす、キスマークと呼ばれるものだ。
もちろん、付けられたことはあっても、俺は、アキラに付けたことはない。今まで、一度も。
もう、心にため込んでいるものを吐き出さずにはいられなかった。
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