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帰ってこない
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アキラは、ここ数日、また帰ってこなかった。
今度の相手は誰なのだろう。この前までは、いわゆる巨乳の女の子で、その前はたしか、中性的な魅力の年上の男の人だった。
最近では、浮気を隠そうとしないどころか、大学の近くで待ち合わせたり、人目につくところでいちゃついたり。それが、俺に見せつけるためにわざとしていることなのか、聞く気もないからわからない。
ただ、大学でのアキラの評判は、どんどん悪くなっていて、遊び人だの、捨てられた女が自殺しただの、彼女をとられた男までが弄ばれ捨てられた、など聞くに耐えない噂があちこちで飛び交っていた。友人のいない俺ですらそれくらい聞いているのだから、実際はもっと酷いものだろう。
アキラは、浮気相手が変わるとしばらく帰ってこなくなるし、帰ってきたとしても、俺もなるべくアキラと顔を合わせないよう時間をずらしていたから、お互いに家に寄りつかなくなっていた。
『帰るとこはここだけだ』
アキラは簡単に嘘をつく。確か実家には帰っている気配はない。詳しく聞いたことはないけど、聞くのをためらうほど上手くいっていないようだった。
でも、他に帰るところあるんだよ、アキラには。
俺にはここだけだ。ここだけなのに。
あれから、一度だけ朝比奈教授に電話をした。
特に追い詰められていたわけではなかったが、部屋で一人きりの朝を迎えて、急に耐えられないほどの寂しさに襲われたのだ。
すがり付くようにかけてしまった電話は、留守番サービスに繋がって、俺に冷静さを取り戻させた。慌てて、「すいません、大丈夫です」とだけ伝言を残す。
後から、折り返し電話をくれたが、どうしても通話ボタンを押す気にはなれなかった。
アキラに翻弄されすぎて、最近では感覚が麻痺していたのか、吐きそうになることは全くなかったのだが。
皮肉なことに、朝比奈教授とのやり取りで、少し心が癒されたらしく、また追い詰められると気分が悪くなることが増えていた。
また、寝る時間を削ってバイトに勤しむ。
小料理屋の女将さんは、いい人なのだろう。痩せていく俺を異様に心配して、食べろ食べろとまかないの量がどんどん増えていった。
食べても吐くから痩せるんだけどな、とは思ったが、口には出さない。
自分の状態が異常なことは、ちゃんと自覚していたから。
体重の減少は、体力も確実に奪っていて。更に寝不足なのだから、もうどうしようもなく。
とうとうある日、小料理屋でのバイト中に倒れてしまう。実際は、倒れかかったところを、女将さんに助けられ、事なきを得たのだが。
でも、そのせいで、俺は、とんでもなく後悔することになった。
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