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明かり
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とんでもなく体調が悪いと、女将さんに判断された俺は、半ば強制的に帰らされることになる。
しばらくは抵抗していたが、タクシーまで呼ばれて、俺の住所を勝手に言われ、お金まで運転手に渡されていたのだから、もう帰るしかない。
心配そうな女将さんの顔が小さくなっていくのを見ながら、アキラが帰っていないといいんだけど、と願う。
新しい相手に替わったばかりだから大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。
思わず、そんな自分に笑いが込み上げてきた。
一緒に暮らす恋人がどうか家にいませんようにと願うなんて。そんなの恋人と呼べるのだろうか。
「ここでいいです」
マンションが見えた辺りで降ろしてもらう。姑息だが、外から明かりを確かめようと思っていた。
外から見て、明かりは点いていなかった。安堵のため息を一つ漏らし、のろのろと重い体を引きずって歩く。
かなり体力が低下しているらしい。鍵を鞄から取り出すことすら、しんどかった。
ようやく玄関を開ける。緩慢な動作で靴を脱ぎ捨て、ふと顔を上げた瞬間、息が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。
奥のリビングに明かりが灯っている。そんな、さっきは確かに。
早く逃げなくては、ここから出ていかなければ、と思うのに体が動かない。
視線を落とせば、先程は気付かなかった見知らぬ靴が一足目に入る。
ああ、もう駄目だ。
目を閉じて、しまった。なんの解決にもならないとわかっていたのに。
「アキラぁ、誰かいるよ?」
甘えるような高い声が頭に響く。
今の相手は、女なのか。
「あー、同居人だ、多分」
アキラの台詞に、頭のどこかを殴られた気分がした。
そうか、同居人か。確かにそうだ。今の俺たちの関係は、友人でもなければ恋人でもない。ただの同居人だ。
「やだぁ、帰ってこないって言ってたじゃん。リナまだシャワー浴びてないのにぃ」
自分のことをリナと言った女の声が聞こえていたが、内容などもうどうでもよかった。
自分の部屋に飛び込み、内鍵をまわす。何も聞こえないように、とヘッドホンをつけてパッと手に取ったCDを流す。大音量にしたかったが、頭痛がしてできなかった。
もう少し、体力が残っていたら、絶対に家を飛び出していたのに。
疲れきった体では、せめて耳からの情報を防ぎ、目を閉じてやり過ごすしかできなかった。
どれだけ時間がたったのか。
適当に選んだCDがクラシックだったのが幸いしたらしく、久しぶりによく眠っていた。時計を見ると、もう昼前だった。
寝汗をかいていたようで、身体中がベタベタとして気持ちが悪い。
シャワーでも、と思った瞬間、昨日のことを思い出す。
音楽を消し、部屋の外の気配を窺う。
誰もいないようだと判断し、それでも足音を消して風呂場へと向かう。
昨日の女もここでシャワーを使ったのかと思うと、吐き気を催したがなんとかこらえる。
汗ばんでいた体に、ぬるめのシャワーが気持ちよかった。
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