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オムライス
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少し迷ったが、アキラの体を拭くためのタオルとお湯を用意して部屋に戻った。
起きているかも、との俺の心配は外れ、安らかなほど穏やかな寝顔でアキラは眠っていた。
洗面器のお湯を絞り、そっとアキラの体を拭いていく。
母親って、赤ん坊の世話するとき、こんな気分なのかな。
生まれて初めて感じる、ただ愛しくてたまらない、そんな感情を覚えながら、儀式のようにアキラの体を清め続けた。
アキラが寝ているうちに、やれることをやっておこう。
そう決めて、重い疲労した体をなんとか動かす。
元々、あまり物欲もない俺は、必要最低限のものしか持っていない。だから、荷造りは簡単なはずだったが、それでものろのろと動いていたからだろう、一時間ほどかかってようやく荷造りが完成した。
あとは・・・
一つだけ、気になっていたことを片付けようと、台所へ向かった。
「片付けてくれてたんだ」
あの時、放置してしまった買い物。どこに置いていたのかもわからないが、アキラが気付いて片付けてくれていた。
その材料を使って、元々作る予定だった料理を作る。アキラの好きな、オムライス。
なるべくゆっくりと作りたかったのに、手慣れた作業はあっという間にオムライスを完成させてしまった。
そういえば、アキラの作ったオムライス、結局食べられなかったな。
俺の家出のせいで、アキラが無茶苦茶にしてしまったオムライス。また作ると言ってくれていたのに、あの時のことを思い出して辛いのか、一度も作ってはくれなかった。
「食べたかった、な・・・」
後片付けをしながら、呟く。
全てが、片付いてしまうと、もう、何もすることはなかった・・・
アキラが寝ている間に出ていきたい衝動を、必死で堪えた。
ここで逃げたら、何のためにここまでやったのかわからなくなる。
それに、最後は笑顔で別れたい。
俺に、ひとを愛する喜びをくれた、世界で一番愛しい人に、笑顔を覚えていてもらいたい。
ただの、俺のエゴかもしれないけど。
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