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泣いていた
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そっと、荷物を玄関に運んでいると、ガタッと俺の部屋から物音がする。
アキラが起きたのだろうか。
とうとう、この時がきた。
少し震えそうになる手足をなんとか踏ん張り、背筋を伸ばした。
みっともない姿は見せたくない。
これは男の意地なんだろうか。そんなものも、俺の中にあったんだ。
そう思うと、自然と顔が緩んだ。
不機嫌そうな表情で俺の部屋から出てきたアキラは、俺の足元の荷物を見て、驚いた表情をした。
「・・・本気、だったのかよ・・・」
呟きながら、傷ついた顔をするアキラに、決心がグラグラと揺れるのを感じながら、必死で笑顔を作った。
「本気、だよ。必要なものは全部持ったから。あとの荷物は、また落ち着いたら、処分なり引き取りに来るなりするつもり」
ダメだ、絶対に泣くな。
言葉を止めると涙が出てきそうで、慌てて、最後の言葉を吐いた。
「今まで、本当にありがとう。俺は、アキラを好きになれて幸せだったよ。だから、次はアキラが幸せになってください」
俺が幸せにしてあげられなくてごめん、とは言えなかった。
本当のこと過ぎて、泣いてしまいそうだったから。
旅行用のスポーツバッグ一つを持ち上げて、ゆっくりと靴を履く。
そのまま、振り返らずに出ていくつもりだったのに、つい、最後にもう一度アキラの顔が見たい気持ちに負けて、扉が閉まる瞬間、アキラを見てしまう。
見なければ、よかったのだ。
最後に俺と目が合ったアキラは、捨てられた子犬みたいな顔で、
泣いていた。
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