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八嶋さん
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───アキラと別れてからのことは、慌ただしすぎて、覚えていないことも多い───
あの日、バイト先にようやく謝罪の連絡を入れた俺は、やっぱりクビで。
一応、私物を置いているロッカーを片付けるため、バイト先を訪れていた。
俺が無断で休んだ間、ずっとシフトのカバーをしてくれたのが、八嶋さんだと知り、一言謝れたらとも思っていた。
無責任なことをした俺に、他のバイトの人たちの視線は冷たく、「ご迷惑をおかけしました」と頭を下げた。
そのまま帰ろうとしていると、たまたま用があってきていた八嶋さんと会う。謝罪して、立ち去ろうとしていたのだが、「迷惑かけたんだから、なんか奢れー」と言われると拒否する権利はなかった。
そのまま、近くのカフェに二人で入る。
「なんか、あったんだろ?」
唐突に、そう言われ、思わず八嶋さんを見つめると、またなんとも言えない切ない表情でこちらを見ていた。
「ここ、気づいてないだろ?」
自分の首筋をトントンっと指先でタップした八嶋さんに、なんのことかわからず、首をかしげる。
「思っきり、濃い跡、つけられてんぞ。相手は、あれか?例の浮気する恋人か?それとも、別のやつ?」
ようやく、八嶋さんの言葉の意味を理解し、慌てて着ていたシャツの襟元を寄せた。
「これは、付き合ってたやつにされたんだと・・・でも、今日別れてきたんです」
ずっと、我慢していた涙が滲んでくる。思わず、顔を俯かせると、以前と同じように頭に手を置かれ、グシャグシャと髪の毛を乱される。
「我慢しねーで、吐き出せって」
優しさもあの時と変わらない。
ずっと、アキラとのことがあって、八嶋さんには何の問題もないのに、八嶋さんを避けていた。
そのことは、きっと気づいているはずだ。それなのに、こんなに優しくしてくれるなんて。
「八嶋さん、なんでそんなにイイ人なんですか・・・俺、こんなに嫌なやつなのに」
グズっと鼻をすすりながら言うと、また例の表情で俺を見ながら、
「ばーか」
と、優しさを込めて言ってくれた。
「・・・色々あって、今朝別れてきたんです。浮気されてるのもしんどくて、でも、嫌いにもなれなくて、このままだと二人ともダメになる気がして・・・」
正直に口が動く。
まだ、涙は我慢できている。必死でこらえているせいで、鼻がずっとツンと痛いけれど。
「・・・こんなときに言うのもなんだけどさ」
八嶋さんの指が俺の顎下にかかり、ぐっと、顔を上げさせられた。
真剣な表情をした八嶋さんと目が合う。
「・・・おれにしないか?・・・ずっと、リョウのこと・・・好きだったんだ」
ひゅっ、と自分が息を飲む音が聞こえる。・・・八嶋さんが?俺のことを?
「・・・やっぱ、気づかれてなかったか・・・一目惚れだったんだけどな」
まさか、そんなこと思いもしなかった。冗談で笑わそうとしているのかとも思ったが、八嶋さんの目は本気だった。
「あ、の、・・・ありがとう、ございます・・・」
でも、と続けようとしたが、八嶋さんに止められる。
「弱ってるお前にツケ込んどいて、何言ってんだって感じだけどさ、今断られるのは納得いかねーわ。あの、アキラってやつよりも、お前を幸せにする自信はある。でも、今のお前は良くも悪くもあいつのことで一杯だろ?
・・・だから、あいつのこと忘れられてから、返事くれよ?な?」
八嶋さんの勢いに負け、呆然としながらも頷く。そんな返事のしかた
でいいのだろうか?それってアキラのこと忘れられなかったら、どうしたらいいんだろう?
いや、そんなことよりも。
「あの、さっき、アキラって言いませんでした・・・?」
なんでアキラのこと知ってるんだ?
「名前知ってたのは、お前がバイト帰りに、一緒に帰ってるとこを見たからだよ。その時、リョウが、アキラって呼んでたから。それに、毎回のように一緒に帰ってるとこ見てれば、アキラって奴がお前の恋人なんだろうなって」
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