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合鍵
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朝比奈教授は、俺からの電話は必ず出てくれる。
それは、きっと以前の自分と俺とを重ね合わせていて、そして俺が教授に電話をするときには、間違いなく俺が追いつめられていることを、長い付き合いで知っているからで。
だから、今日も、俺はギリギリのところで、電話をかけたのだ。
「すみません、教授、お時間よろしいですか・・・?」
時間は真夜中というより、朝に近い。
よろしいわけないだろ、と自分でもわかっていたが、すがり付かずにはいられなかった。
「ん・・・大丈夫だよ、ウチ来るかい?」
教授の言葉に甘えて、家を飛び出した。一人きりの空気すら吸いたくない。
教授のマンションまでは、走れば10分で着く。早くこの例えようのない孤独感から抜け出したかったが、走る気力はなく、結局、15分ほどかかってやっとマンションに到着した。
こんなときの為に、預かっている合鍵で、マンションへ滑り込む。
教授の部屋まで、あと少し。そう考えると、少しだけ気持ちが落ち着く。
教授の部屋の玄関を合鍵で開けると、
コーヒーのいい香りが充満していた。
「いらっしゃい、早かったね」
寝起きでしんどいはずなのに、そんなことおくびにも出さない教授に、泣きそうになる。
こんな優しい人に迷惑をかけてしまっている。
「教授・・・ほんとにすみません」
「んー?アキラ君のことでしょ?」
あっさり、言い当てられてしまう。
「久しぶりに、リョウ君に教授って呼ばれたなぁ・・・あの頃のこと、思い出してたんだ?」
そう言われれば、そうだ。
差し出されたコーヒーを受け取りながら、教授、いや、先生の顔を見ると、柔らかい表情ではなく、からかうような顔で笑っていた。
却って、その笑顔に落ち着きを取り戻した。優しく微笑まれれば、きっと俺はどこまでも落ち込んでいっただろう。そして、それがわかっていて、あえてからかったのだ、この人は。
しばらく、黙って俺の話を聞く先生。
リョウが結婚したことを告げると、少しだけ驚いた表情を浮かべたが、黙ってコーヒーを飲んでいた。
「・・・リョウ君は、どうしたい?」
俺の話が終わってから、ずっと二人でコーヒーをちびりちびりと飲み続けていた。
ようやく、口を開いた先生の言葉は、俺たちの関係を少しだけ変えるためのきっかけとなる。
俺は、毎回、その言葉に、黙って寝室へと向かう。
これから始まる全てを理解した上で。
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