アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
本気
-
「リョウ君、昨日はごめんねー。あの後、楽しんだー?」
先生の能天気な声が、今日ほど腹が立ったことはない。
「あれあれ?もしかして、リョウ君かなり怒ってる?」
怒ってるに決まっている。
この人のせいで、俺は、名前も知らない男に騙されて、キスまでされたんだから。
昨日、正確には今日のことを思い出しただけで、吐き気がした。
あの後、あまりの衝撃に呆然としてしまった俺は、男が舌を差し入れてくるまでされるがままに、唇を奪われていた。
他人の舌のぬるっとした感触を感じた瞬間、吐き気が俺を襲い、ようやく我に返った俺は、男を突き飛ばした。
意外なほど呆気なく離れた男は、「ごめんね」と軽い謝罪を残し、その場を去っていく。
そこで、やっと、全て俺の勘違いから始まったことだとわかったのだ。あの男は、元々そのつもりで俺に近づいて来ていた。ママが何も言わなかったのは、変な奴じゃないと知っていたから。つまりはあの店に常連ということで、あの男は同性愛者だということで
・・・。
全て自分が悪いのだ。警戒心を簡単に解いてしまい、向こうからすれば、その気があるような態度を取っていた。
自分が悪い、わかってはいるけれど、そもそものきっかけを作った目の前の先生を睨まずにはいられなかった。
まぁ、たかが、キスされたくらいで、文句を言うつもりはなかったが。
「先生、この前先生が置いていったあの書類ですが、やはり私のような新人の頼りないものが、先生の代わりなどおこがましいので、どうぞ責任をもって最後までご自分でなさってくださいね」
一番先生が苦手としている、事務処理の仕事を多量に押し付けるくらいの仕返しは、許されるだろう。
そもそも、先生の仕事だしな。
「うそ・・・リョウ君本気で怒ってる・・・こんなの、終わるわけないよお・・・」
情けない先生の様子に、ようやく苛立ちが治まった。
まだ、先生が何かわめいていたが、完全に無視して、自分の仕事に集中する。
あんな変な男に構ってる暇はない。
もう、二度と会うこともないだろうし、あの店に顔を出すこともないだろう。
それよりも、一つ、気になっていることがあった。
あの時は、軽く酒も入っていて、その言葉が耳に入ってはいたものの、深く捉えていなかった。だが、今の素面の頭で考えると、どうしても悩まずにはいられなかった。
あの時、あの店でママは言ったのだ。
『あらあら、ヒナちゃんってば、よっぽど今の彼氏に夢中なのねー。慌てて飛んで行っちゃって』
と。
その言葉が意味することは、つまり、先生には今、遊び相手ではなく、恋人がいるということで、しかも、先生が夢中になるほど、本気だということで。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
78 / 259