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思い知る
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俺は、よっぽど驚いた顔をしていたのだろう。
俺の顔を見た男がプッと小さく吹き出した。
そんなことを気にならないくらい、動揺していた。
脅されるんだと思ってた。
無意識に口に出ていたらしい。
男も少し目を見開いて、驚いたような顔をした後、可笑しくてたまらないといった顔で笑った。
「亮くんは、すごく思い込み激しいタイプなんだな」
自分ではそうは思っていなかったが、否定はできない。前回に続き、今回まで。どうして、ここまで思い込んでしまったのか。
「それに、もう少し観察眼も養った方がいい」
自信のあった観察力を否定され、少しムッとした。またそれが顔に出てしまっていたようだ。
「ホントに気づいてないんだね。ほら、ココ」
気づいてないって何がだ。お前が既婚者で子どももいるってことなら知ってるぞ。
そんな反発心から、男がトントンと指で示した部分を半ば睨み付けるように眺める。
男が指で示したのは、男のスーツの襟元で、そこにはテレビでしか見たことのないものが鈍い色を放っていた。
「弁護士さん、だったんですか・・・」
しかも、男がひまわりの形のバッチを叩いている手指には、前回見た結婚指輪はされておらず、またしても自分の思い込みを思い知らされる。
「弁護士たるもの、脅したりなんかしないよ」
含み笑いでそう言われても返す言葉もない。
「それに、これはもう気づいているかもしれないけど、私は以前は結婚してたけど、今はしがない子持ちの独身男、だからね」
指輪は周りへの牽制でたまに着けるんだと言われてしまえば、俺の浅はかな思考を突きつけられているようで、心の底から情けなかった。
身を小さくして、恥じ入っていると、男が今度は俺の肩をトント
ンっと小さく指で叩いてきた。
思わず、顔を上げるとかなり至近距離に男の顔があった。
「亮くん、私が告白したの、忘れてるでしょ?・・・一目惚れしたんです、付き合ってくださいってついさっき言ったばかりなんだけどな」
図星をさされて、顔が一気に羞恥に染まった。
「・・・一目惚れしたっていうのは聞いてません」
辛うじて、そう言い返すと「そうだっけ」とあっさりかわされて。
短い時間だが、なんとなく男の性格がわかってきた。言葉遣いは丁寧だが、典型的ないじめっ子タイプだ。
俺は、なんとかいつもの自分を立て直す。冷静になれば、このタイプを対処することだって難しいことではない。
まずは、男のペースになってしまっているこの状況を変えなければ。
男に気づかれないように、小さく深呼吸をして、目の前の温くなったビールを一口あおった。
その不味さに、かなり冷静さを取り戻せた気がする。
「橋本さん、お気持ちはありがたいのですが、今、私は誰ともお付き合いをする気はありませんので、慎んでお断りさせていただきます」
軽く頭を下げて、にっこり業務用の笑顔までつけた。
ここで、弁護士だという男の頭の回転の早さを見誤ったのは、やはり頭に血がのぼっていたのだろう。
「なるほど、ね。君はまだアキラ君とやらが忘れられない、ってことだね。誰とも付き合う気がないということは、別に私に問題があるというわけではない、そうだよね?私自身の問題でフラれるならともかく、見たこともない相手を言い訳にフラれるのはどうも納得いかないな」
立て板に水とはこのことか。所々俺の意見を聞いているようで、結局は自分の思うように話を持っていく。流れるような話はさすが、弁護士だと思わされた。
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