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晴れ晴れ
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それから、どうやって男から逃げたのかわからない。
必死で男から逃げようとしている俺に、苦笑いを浮かべた男が、「ちょっと、焦りすぎたかな」と言っていたような気もする。
逃げたというよりは、逃がしてもらえたのだろう。
気がつけば、見慣れた自分の部屋の前に立っていた。
どうしてこんなに動揺したのか、どうして男のことを怖いと思ったのか。
自分の気持ちに向き合えば、自然と答えは出た。
そうか、“そう”、だったんだ。
今まで気づこうとしなかった答えにたどり着いたら、よほど気持ちがスッキリしたのだろう。アキラと別れてから初めて、睡眠導入薬を飲まずに寝ることができた。
*****
「おはようございます」
「・・・リョウ君、何かいいことあったの?なんか、いい顔してるね」
先生にそう言われるほど、わかりやすく晴れ晴れとした顔をしていたのだろう。
「そっか、この前のイベント上手くいったんだってね。小島さんから報告とお礼があったよ。いい先生を紹介していただいて助かりましたって」
いつもなら、先生の軽口と捉えるそれも、今日は素直に嬉しく感じられた。
「先生の名前に泥を塗らずにすんで、よかったです」
「・・・ホントにどうしたの?熱でもあるの?」
熱を測ろうとする先生の手をかわし、そのまま先生の顔を見つめた。白髪はさらに目立つようになったものの、相変わらず歳を感じさせない。
さらさらの髪の毛に、柔らかく弧を描く眉と、茶色く少し垂れ気味の瞳。目尻のホクロが、なんとなく色っぽくも感じる。
そういえば、長い付き合いでもこんなにじっくり眺めたのは初めてだ。そんなことに気づいて少し笑みがこぼれた。
今なら、先生に聞けそうだ。ずっと聞きたくて聞けなかったことを。
「先生、今、お付き合いされてる方がいらっしゃるんですか?」
なんだ、口に出せば、こんなに簡単なことだった。
先生は、しばらくポカンとした顔をしていたが、質問の意味がわかったのか、急に頬を赤らめた。
「・・・ずっと黙っててごめんね。いつかは言わなきゃって思ってたんだけどね、なかなかタイミングが・・・えっと、そうじゃなくて、・・・うん。いるよ。真剣に付き合っている人」
ごく自然に心からの祝福の笑みがあふれる。
「おめでとうございます」
先生は、ひとしきり照れた後、その緩みきった顔で俺に問いかけてくる。
「それで?リョウ君のほうは、どんないいことがあったの?やっぱり新しい出会いが良かった?」
「そうですね、最良の出会いではなかったですが、おかげで一つ、気づいたことがありました」
先生は、ん?と不思議そうに首をかしげる。このひと確か、今年40歳のはずだよな。なんでこんなポーズが自然なんだ・・・
「28年間生きてきて、初めて気づけたんです。・・・オレが同性愛者だって」
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