アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
忘れなくていい
-
その言葉は俺にとっても衝撃だった。
───“忘れなくていい”
もちろん、先生も同じだろう。いや、俺よりも深く長く傷つき続けた先生には、もっともっと深く心に響いただろう。
だから、先生はシュン君と付き合ったんだな。
自然と、その告白の様子が目に浮かんだ。先生はきっと泣いたんだろう。
過去の話をしても泣かなかった先生は、一回り以上も年の離れた青年の前で、きっと子どものように泣いたんだろう。
先生は、今までずっと泣かずに耐えていた。けれど、心のどこかで、シュン君のように自分を受け入れてくれる人を待っていたんだろう。
よかった。
心からそう思う。
先生が、シュン君と出会えて。
「本当に、よかったですね。先生」
涙が出そうになり、必死で我慢したら、鼻がツンと痛んだ。
「ありがとね。こんなおじさんでも、幸せになれたんだから、次は、リョウ君の番だよ」
その言葉には、素直に頷くことができなくて、曖昧に笑って誤魔化す。
先生は、それを照れて誤魔化していると思ったようで、相手があの橋本だと決めつけて、どんな人間か根掘り葉掘り聞き出そうとしてくる。
否定するのも、面倒な上に、じゃあ誰なんだと聞かれても困る。
橋本について聞かれたことを、素直に話した。先生は、いちいち反応してくれたが、俺はずっと別のことを考え続けていた。
忘れなくてはならないと思っていた。
早く忘れなくては、と。
引きずってはならない想いだと思い、必死で心の奥底にしまい込もうとしていた。
それでも忘れられなくて、ちょっとしたことで思い出が蘇り、息もできないくらい苦しくて、先生に救いを求めて。
でも、忘れなくてもいいんだ。
思い続けることも引きずることも、罪じゃない。
昨日とは少し違う結論に達したが、それもまた、俺を明るくしてくれる。
俺は、アキラをずっと好きでいいんだ。
ずっと愛し続けていいんだ。
それだけで、俺はこんなにも幸せになれる。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
87 / 259