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運のつき
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八嶋さんとの一件があってから、しばらくして、突然、俺のスマホに見知らぬ番号から着信が入る。
仕事関係か、とあまり深く考えずに出てしまったのが、運のつきだった。
「やあ、亮くん」
この腰にくる、低く甘い声は、忘れたくても忘れられなかった声だ。
今更、どうして知らない番号からの着信を受けてしまったのか、悔やまれる。
「どちら様ですか」
悔しさのあまり、わからないフリをする。相手にも伝わっているのだろう。
ふっ、とかすかに笑った気配がした。
「橋本です。君を口説いている真っ最中の」
弁護士相手に、口でかなうはずもない。突っかかっても時間の無駄だろう。
「ご用件は」
「君を口説きたいので、今晩時間を作ってもらおうと思ってね」
「お断りさせていただきます」
「冷たいなぁ、まあそういうとこがイイんだけど」
同じようなやりとりが何度も続いたあと、とうとう根負けした俺が、今夜の約束をして、電話は切れた。
はあ。
大きくため息をつく。
どうして俺の回りは、強引な人間が多いのか。中でも橋本は、その我慢強さから見ても、かなり面倒だ。
今月、飲みにいくことが多いせいで、財布も心もとない。
俺は、再び大きくため息をついた。
*****
橋本と待ち合わせたのは、あのバーではなく、普通の居酒屋だった。
何席かは、個室仕様になっており、かといって密室でもない。
値段も安いし、俺の経済状況にもぴったりだと思ったからだ。
待ち合わせには10分ほど遅れてしまった。こんなことで負い目を感じたくなかったのに、と少し焦りながら店に入れば、相変わらず余裕の表情の橋本がすでに個室に座っていた。
今日も、高級そうな趣味のいいスーツを着こなし、タバコを燻らせている姿は、悔しいけれど様になっていて、かっこいいと素直に思った。
でも、それだけなのだ。
どんなにドキッとさせられても、この人を欲しいとは思えない。
俺が心の底から欲しいのは、アキラただ一人だ。
───もう、手には入らないけれど。
それでも、細胞の全てが求めている。
アキラだけを。
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