アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ー2
-
「ハァ……ほんと最低」
結局、瀬良のことに関してはあらいざらい説明させられた。思っていた通り、全部話し終えた後の汐音の第一声は「くだらない」の一言だった。
…だから話したくなかったのに。
しかも、なぜか人は選べと母親に言われるような説教まで受けている。
「そんなことより、なんで瀬良さんなの。君は誰にでも分別なくついて行くんだから……あれには近づいちゃだめだからね。なにしでかすかわかんないんだから」
「……………」
「ちょっと、聞いてる?」
「…聞いてる聞いてる」
それって同属嫌悪のような類だからとかいうのじゃないだろうな?
だとしたら、自分でかなり墓穴掘ってると思うけど…
「なんでそこまで嫌うんだよ?」
「別に…嫌う、とかそんなんじゃない」
「じゃあ、なんだよ」
急かすように問い詰める。
ジッと見据えていると、一瞬怯んで口をモゴモゴと動かした。
声が小さくてなかなか聞き取れず、俺はその口もとに耳を寄せた。
「そうじゃなくて……、だから、
…………名前……………」
「……名前?」
「……君のことを『かおる』って呼ぶのは…………僕だけ、なのに…………」
「……………」
……………
……………
……ああ、なんでかな
思わず噴き出しそうになる。
それはつまり──
「……嫉妬してんの?」
"嫉妬"という単語に普段澄ましたような顔がみるみるうちに赤く染まっていき、バッと腕でその醜態を隠す。
だけどすべては隠しきれてなくて、真っ赤になった耳が髪の間から覗いていた。
態度を見れば明らかなのに、汐音は頑として認めようとはせず「…ぜんぜん違うから」と顔をのぞき込んだ俺の頭をはたいた。
「こんなの……こんなになるの、僕だけみたいじゃないか……
………恥ずかしい」
くだらない、面倒くさい、鬱陶しい
吐き出される言葉はすべてが本心だったわけじゃなく、単なる照れ隠しだったのか
不器用で回りくどい
本音を伝えられなくていつも苦しい
でも、それでもいい。俺だけに見せる汐音の姿があってもいいと思うから。
「…俺だってそうだよ。
名前で呼ばれるのはお前だけがいい。…俺が忘れてる記憶を思い出したい、っていうのも確かに本心だ。
…好きだから、思い出したい。お前との思い出全部。『かお』って呼んで欲しいと思うのは"特別"が欲しいからだ」
「……なにそれ…ずるいな」
「まだ言うか、意固地だな。さっさと認めろよ」
「っなんだよ、呆れたならはっきりそう言えばいいだろ…」
「違ぇーよ。あー、ったく…なんでそう悲観的なんだ」
俯いたまま肩を震わせる汐音の背に手を回しそっと包み込んだ。
嫌わないで、離れないで、って心の声が全身から伝わってくるようで
それをかき消すかのように抱き締める手に力を込めた。
「もうさ、『好きだから』でいいだろ。余計なこと抱え込み過ぎんなんだよ。つらいんなら話せばいい。
…俺だって一緒に背負いたいんだから」
「………ん…。わ、かった……」
ぎこちない返事に続き、遠慮がちに回された手にまた口もとが緩んだ。
──俺はとっくにこいつに溺れてる
「…………かお………、」
「…ん?」
「……ごめん…」
この時はまだ、「ごめん」に込められた本当の思いを俺は理解できていなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
57 / 291