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「…ねぇ、春野。"本当の幸せ"ってなんだと思う?」
「………どうしたの突然」
今の時間、普段なら日本史の授業をしているのだが、テストが近く範囲もすでに終わっていることから自習になった。
課題プリントだけ配られて後はどうぞご自由に、って感じだ。
担当教師は職員室に戻ってしまったので教室には生徒達しかいない。
それでも大騒ぎせず数名ずつの集まりがコソコソと喋るだけに留まっているのは委員長の存在が大きいと思う。
雰囲気が緩んできた最初に、一言「…他人に迷惑がかからない程度にしてくれませんか」と睨みを効かせてからその後はとても静かだ。
「帆奏からそんな真面目な話が出てくるなんて絶対おかしい」
「ちょっと春野さん、あたしを何だと思ってるの?」
「なにって…変態で悪趣味で、勉強苦手で、無駄に空気を読むのが上手くて世渡り上手なのが鼻につく感じの、」
「後半は褒められてんのか貶されてんのかよくわかんないんだけど…」
「…私も途中からわかんなくなっちゃった」
なんだか今日は帆奏の様子が変だ
朝も、テスト期間中は委員会の仕事ないって言ってたのに…
今だって心ここに在らずって感じでボーッとしてる
いつもみたいにへらへらしてるけど、時々思い詰めたみたいに表情が険しくなるんだ
「あたしだって、最近色々と考えるわけよ」
「さっき言ってた"幸せ"について?」
「……うーん」
へらりと笑い、曖昧にはぐらかされる。
帆奏は気付いてないかもしれないけど、なにか大事なことを隠そうとする時、必ずそうやってなんでもない風に笑うの、私知ってる
「春野にとっての"幸せ"ってなに?」
「あ、わ…私?」
「うんー」
「えと……お、お麩…食べてる時、とか……?」
「ちっさ…他には?」
人に聞いておいて小さいとはなんだ…
「…………漫画、とか……アニメのDVD買う時……とか、かな………」
「ふーん、そう…。
じゃあ、それだけの為に他の一切の物を捨て切れる?」
「えぇっ? そ、それはわかんない…」
「………だよねぇ」
「え? え?」
一方的に質問された挙げ句、本人は何事もなかったかのように課題プリントに戻ってしまった。
なんだか納得がいかない。
「そ、そういう帆奏はどうなの?」
帆奏のことだから、どうせ「ホモがー」とか「脳内妄想してる時ー」とか言うに決まってる
その答えを期待し、去なしてやろうと思って聞いた。
絶対そう返ってくると思ってたのに。
「あたしは…"本当の幸せ"ってのは
日々感じる小さな喜びとかじゃなくて、もっと大きな…やすやすと手に入るようなものじゃないと思うんだ…」
帆奏の手元でくるりと回ったシャープペンはカツン、と音を立てて床に落ちた。
思いの外重かった…
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