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藤原碧の過去。①【先生目線】
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俺が中2のある雪の日。
父さんが、車で兄貴を迎えに行った。
2人はその日、事故で帰らぬ人となった。
兄貴は優秀だった。父さんも優しかった。
その日から、音を立てるように母さんが壊れていった。
俺を翠(みどり)、翠と兄貴の名前で呼んでくる。母さんは、今ここに居ないだけで2人は帰ってくると思っているし、居ないのは兄貴ではなく、俺の方だと思い込んでいた。
「俺は…碧だよ…?」
「そうねえ、碧と父さんはいつ帰って来るのかしらねえ…」
いつもこう返してくるだけだった。
綺麗だった母さんは、段々とやせ細り、老いていく。頭の奥底では、この事実をわかっているんだろうか…心だけが、理解しきれていないのだろう。
毎日毎日四人分のご飯をつくり。
毎日毎日帰りはまだかと俺に聞いてくる。
いや、俺じゃないか、兄貴に。聞くんだ。
そうやって、俺は兄貴になり変わって行くのだろうか。
兄貴のフリも上手くなった頃。
中学校卒業式の日。
卒業証書を貰って、これ見たら、俺だってわかって褒めてくれるかな。なんて、淡い期待をしてたけど、その証書を見る前に、母さんは首をつって死んだ。
リビングのテーブルの上に、封筒が置いてあって、中を見たら、ネックレスと手紙が入ってた。
その手紙を広げて読んだら、それはまごうことなき遺書で、しかも、ちゃんと俺宛だったんだ。
その字は、所々滲んでいて、母さんが泣きながら書いたのは、一目瞭然だった。
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碧へ
母さんは、父さんと翠の元に行こうと思います。
卒業式を、見てあげられなくて本当にごめんなさい。
あなたの卒業証書を見たら、未練が残ってあの人たちの元へ行けなくなると思って、今日行くことに決めていました。
碧、本当は、貴方だとわかっていながら、翠と呼び続け、ご飯を作り続けていた理由は、そうでもしないと、生きて居られなかった。
あの事故を認めるということに、耐えられなかったからです。
どうかこのわがままな母を、許さないでください。そして、私達のことを、忘れないでください。
幸せだったあの日々を、忘れないで。
形見として、父さんから貰った大切なネックレスを入れておきます。
さようなら。それから、ありがとう、寂しい思いをさせて本当にごめんなさい。
貴方はどうか生きて下さい。
愛していました。
母より
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読み終わった頃には涙が溢れていた。
止まらなくて止まらなくて、涙は枯れないんだと言うことを、この時知った。
母さんは誰よりも愛が強かった。
それ故、忘れないでくれとネックレスを俺に託すような、気持ちの重い人だった。
手紙を隠して、ネックレスを首にかけて、警察を呼んだ。
遺書は無かったかと何度も聞かれたが、俺は知らないと言い張った。
この手紙は、誰にも見られたく無かった。
あの事故後、母が唯一俺を見てくれたという、証拠だったから。
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