アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
終演そして興奮
-
目の前で次々と刺されていく剣に、圧倒される。
前後左右にまるで踊るように二人になったバレリーナが、その華奢な手に似つかわしくない剣を迷いなく箱に差し込んでいく。
魅入っていたエリックの前に、すっと剣が差し出された。
「さあ、エリックくん。最後の仕上げを」
花のような笑顔に少しだけ緊張を解き、金色の柄を握る。
子供には少し重い剣を、バレリーナは小さな手に手を添えてアシストをする。
「さぁ、最後の一振りです!」
残された穴はピエロの心臓の位置。思わず喉を鳴らすエリックに、バレリーナが優しく囁く。
「大丈夫。さあ、いきますよ」
ゆっくりと、確実に穴へと刃先が入ってゆく。
手に何かを刺すような感触がない事に驚きつつ、そのまま刀身を全て飲み込んだ箱は、なんの物音もしない。
「さあ、皆様ご注目ください!彼の運命はいかに!」
ドラムロールが流れる。会場を緊張感が包み、最高潮の所で鍵をあけた箱が開かれた。
剣が深々と縦横無尽に差し込まれており、その中央には紫とオレンジの縦縞の服が無残な姿で貫かれている。
しかし、そこにピエロの姿はない。
呆気に取られていたエリックの肩に、ポンと置かれた手にビクッとする。
見上げた先には、別の衣装に身を包んだピエロが笑っていた。
「無事生還いたしました!」
客席に手を振るピエロに、割れんばかりの拍手が起こる。
それに続いて団員たちがステージに現れた。
「本日は楽しんでいただけましたでしょうか。またお会い出来る日を楽しみにしております!ご覧頂いた皆様に、そしてお手伝いをしてくれたエリックくんに感謝を!ありがとうございました!!」
歓声と拍手の中、エリックもその渦の中心でまるでサーカス団員になったような錯覚を覚えた。
心臓がバクバクと興奮を伝える。
鳴り止まぬ拍手の中、ピエロがエリックに囁く。
その言葉に彼の心臓は、大きく脈打った。
「楽しかったぁ!!」
高揚する気持ちを抑え切れないのだろう。
エリックはまだほんのりと赤い頬を緩ませ、興奮をリチャードへと吐き出していた。
夢みたいにまだふわふわしてるよと、心臓を両手で押さえながら、はぁと息を漏らす。
そして、エメラルドの瞳を輝かせたまま執事へとその視線を上げる。
「リチャードも楽しかった?」
「ええ、とても楽しめました」
そっかと自分の事のように喜ぶ主に、その興奮している姿の方がよほど見ていて楽しいと思っていた事を、執事は笑顔の裏に隠しておく事に決めたのだった。
「あ!」
突然大きな声をあげ、立ち止まるエリックに、どうしましたと一歩先を行ってしまったリチャードも歩みを止める。
「ハンカチ忘れてきたかも…ちょっと取ってくる!リチャードは先に馬車に戻ってて!」
そう言うが早いか人混みをするすると避け、テントへとかけて行ってしまった。
突然のことに一瞬出遅れた彼も、慌ててその背中を追ったが、帰る人の群れに上手く逆らえずに小さな背中を見失ってしまった。
「全く、あの方は…!」
執事の苛立ちの声は、ざわざわと夢見心地の観客達の雑談に紛れて宙に溶けた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
9 / 23