アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ピエロとウラガワ
-
「いらっしゃい、エリックくん」
にこりと出迎えたのは、あのオレンジの蝶の模様を入れたピエロだ。
『あとでこのテントにおいで。裏側をみせてあげるよ』
客席へ戻る前にピエロに囁かれた言葉だ。
滅多に見る事が出来ないサーカスの裏側への招待に、好奇心旺盛な少年の心は踊らずにいられなかった。
ピエロに手を引かれ来たのは、大きな紫のテントから少し裏側に離れた場所。
そこには、大小さまざまなテントが立ち並んでいた。
「白いテントが団員達の寝室で、中央のオレンジのテントが食堂だよ」
あっちは猛獣達がいてと説明をする指先を追うエリックの瞳は興味津々ときらめいていた。
しばらく進むと青色をしたテントが並ぶ場所に来た。
ここは?と見上げるエリックに、ここはねと声を潜めピエロが囁く。
「秘密の場所、なんだよ」
「秘密?!えと、いいの?オレなんかが入って」
「うん。エリックくんには今日頑張ってもらったから、特別、だよ」
しーと内緒話をするような仕草をして、ピエロは笑った。
エリックもそれに習い、分かったと声を潜めた。
こっちへと引かれるまま、青いテントに入る。
中は薄暗く、小さなランプがひとつだけ入口を照らしていた。
目を凝らすと奥に赤い幕が張ってあり、その前に一つベッドが見えるだけで、実に簡素な内装だ。
「ここはなんの部屋なの?」
首を傾げるエリックの腕に、チクリと小さな痛みが走る。
何?と腕を見ると、そこには針が刺さっていた。しかも刺しているのは、ピエロだ。
次の瞬間、その笑顔がぐにゃりと歪む。
がくんと膝が地面に落ち、どさりと上半身も落ちた。
何が起こったかわからず、ぱちぱちとゆるい瞬きをしていると、上から低い震えた声が降ってくる。
「ああ、ああ、ごめんね。すぐ、ふかふかのベッドへと運んであげるからね」
その声にぞわりとした恐怖を覚え、エリックは立ち上がろうと手に力を込めるが、それは叶わなかった。
まるで自分の体ではないように、全身が言うことをきかないのだ。
生温い腕が体の下に入り、そのまま持ち上げられる。
近くなった蝶が、酷く醜く見えた。
「さあ、これから本当の夢の中のような気持ちのいい世界へ連れて行ってあげるよ」
あの震えた声は歓喜による物だと、ここでようやく気付く。
そして自分の浅はかさを呪った。
リチャード。
脳裏に浮かんだ顔にごめんと呟いたが、その言葉が彼に伝わる事は、無い。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 23