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対立と忠告
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「ひとつ、聞いてもよろしいでしょうか」
突然の問いかけにも気を悪くした様子もなく、部屋の主は何かなと首を傾げた。
「どういうつもりでエリック様と仲のいいフリをしているのでしょうか」
「どういうつもりとは?」
「娼婦の子供など汚らわしいと、以前言っていましたよね?」
客に対してはあるまじき鋭い目つきの執事とは対象的に、どこか楽しそうにブラウンは答えた。
「ああ、そういえば言ったね」
何を隠そう彼を紹介してきたのはブラウンだったのだ。
『気まぐれで一夜を共にした娼婦が身ごもってね』
『おろせと言ったのだが聞かなくてね。どうやら金目当てのようだったから言い値を渡したら味をしめたらしい』
『まぁ、こちらが手を下す前に病気で死んだのは幸いだったが、子供はしぶとくスラムで生きているんだ』
『娼婦の子など汚らわしい。出来たら君の方でどうにかしてくれないか』
彼は優雅に紅茶を飲みながらそんな事を彼の友人であるリチャードの雇い主に頼んできたのだ。
『君の言い分はわかった。確認するが、処遇はこちらに任せてもらっていいのか?』
『ああ、好きにしてくれて構わない』
その会話の全てを聞いていたリチャードが疑問に思うのも当然だ。
あれだけ嫌悪の対象にしていたのに、今や仲の良い本当の親子のように振舞うのだから。
ブラウンにとっての誤算といえば、雇い主が彼を気に入り自分の養子にしたことだろうか。
「気に入らないのであれば関わらなければいいのではないのですか?」
執事の言葉に可笑しそうな小さな笑いが返ってきた。
その態度に眉間のシワを濃くすると、すまないねと細められた目が向けられる。
「いや、君には珍しく随分ご執心だなぁと思って」
その言葉に面食らったリチャードは一瞬目を見開くが、眼鏡を指で押し上げながら小さく息を吐いて無感情を装う。
「経緯はどうであれ、彼は今、私の主です。気を向けるのは当然かと」
「物は言いようだね」
含みのある言い方に反応を返す前にブラウンは言葉を発した。
「…興味が湧いたんだよ。生まれも育ちも良くはなかったはずなのに、あれだけ純粋に生きていることに対してね」
好奇心。なんとも単純で厄介だろうと執事は舌打ちをしたくなった。
「あと、容姿がとても私好みなのもあるかな」
彼に頼む前に顔だけでも見ておけばよかったよと笑いながら冗談のように告げるブラウンに、はぁと盛大に溜息を吐き出す。
「…そう言う事でしたら納得しました。一応は」
最後の方を強調する執事に、紳士の仮面をかぶった男は再び笑いを漏らした。
「失礼な態度と言葉、お許しください」
「いや、むしろそっちの方が私としてはしっくりくるから気にしなくていいよ」
ありがとうございますと感情のこもってない礼をする。
それすら楽しむような笑顔の目の前の男に、改めて苦手意識を確認させられた。
「長居しました。これで失礼いたします」
「またおいで。君と話すのは楽しいよ」
「勿体無いお言葉ありがとうございます」
「ふふ。それと彼らによろしく伝えておくれ」
かしこまりましたと一礼し、背を向ける。
豪奢な扉を開け、部屋を出る前にブラウンに微笑む。
「最後に……主に何かあった際、番犬は容赦なく噛み付く事を覚えておいて下さい」
反応も見ずに閉まる扉を見ながら、ブラウンは口の端を釣り上げた。
「ぜひ、その容赦なく噛み付く姿を見たいなぁ」
うっとりと黒い笑みを浮かべる彼を知るものは誰もいない。
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