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不思議な先輩
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放課後。
俺は、ルイを置いて先に部室へ来ていた。
まあ、ルイは例のラブレターの件で何処かに行ってしまっていたというのもあるのだが…
一番に今日、授業中に練ったデザインを早速描かなければとその一心だった。
俺は、足りなそうな絵の具を陸の部分(注1)に出して…
ペインティングオイル(注2)を追加して…
などと準備をしていると、部長の神無月先輩ともう一人見慣れない先輩が入ってきた。
「こんにちは!今日は、またもや朗報がある!なんと、高2の転校生、夜鳥郁也くんが入部することになりました!じゃあ、自己紹介してね?」
その言葉に部室は静まりかえる。
夜鳥と呼ばれた先輩は、気だるげな様子でフードをかぶったまま言った。
「高2。夜鳥郁也だ…専門は、油彩。以上。」
とてつもなく、簡単な挨拶だった。
むしろ、挨拶と言えるのかっていうレベル。
「こんな無愛想そうな子だけど、みんなよろしくね!」
部長が、陽気な様子でフォローを入れる。
そういえば、油彩ってことは、俺と一緒か…
だけど、もう構想画(注3)のほうは席がもういっぱいだから、静物画(注4)か?
でも、今回の静物画は…
モチーフ(注5)が、カボチャと牛骨と茶色の瓶となんとも魅力のないものばかりである。
それに形もとりにくい。
しかし、そんなことも気にせず、夜鳥先輩はもうそこに席を設けていた。
変な人だな…
それが、一番最初に俺が先輩に持った印象であった。
ブレザーの中にフード付きのパーカーきてるし、絵を描きはじめても脱ぐ気配ないし…
膝を抱えながら描いてるし。
自分からの席だと夜鳥先輩の様子を後ろから見れる位置だったので、油彩の描き方とか参考にと思って、ちらちらと観察してみた。
まず、先輩のパレットには海も陸も区別が無いようで、至る所がデコボコとしていた。
そこにチューブから直接青や緑、それと紫の色などを出して無造作にかき混ぜる。
衝撃が走った。
なにこの人⁉︎
描き方もなにもあったもんじゃない。
普通なら、一旦陸に出してから少しずつとって混ぜるものを…
なんと大胆な…
常識外れの描き方だと思った。
そして、だいたい色が出来上がったようでそれを刷毛で大胆に全面均等に塗っていったのだった。
「なかなか、豪快な描き方するね、あの先輩。」
「うわ⁉︎ルイか…驚かせるなよ…」
急に耳もとでルイの声がして、驚く。
気配もなにも感じてなかったからなおさらに…
「別に驚かせようと思ったわけじゃないけど、隼人が余所見してたから、気になって」
態とらしく、ルイは俺の耳に息がかかるように話す。
耳が弱いのを知っているくせに。
俺は負けない。
ここは、反応しないでみせる。
何故か、そう思ったのだった。
「あの先輩の描き方を参考にしようと思ったんだけど、分からないんだよな。俺には雑にやってるようにしか…」
今、先輩は全面に塗った濃い紫をモチーフを見ながらティッシュで拭き取り、絵に濃淡をつけている。
ただ、テキトーにやってるようにしか見えないのに出来てくる絵は、もう既に出来上がったようにも見えてきた。
「す、すげぇ…」
「確かにね。一色の絵の具であそこまでの濃淡出せるんだ…」
いつの間にか、俺らは2人して先輩の手の動きを追っていた…
「ほらほら、デモンストレーション(注6)もいいけど、ちゃんと自分のも進めなさいよ?特に、ルイはあんまり進んでないんだから…」
部長がそう促すとルイは不服そうな顔をしながら、渋々自分の席へ戻っていった。
そして俺も、前髪をヘアゴムで結んびあげて自己制作に取り掛かることにした……………
(注1)絵の具のチューブから出すところ。
(注2)油彩で絵の具をとくための油。
(注3)想像で描いた絵のこと。
(注4)ものを見ながら描いた絵のこと。
(注5)静物画を描くときの、モデルになるもののこと。
(注6)人に見せながら描くこと。実演。
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