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5.裁かれる想い4
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「そうか」
「昔のこと」が何なのかを、僕は言わなかった。一度口に出してしまえば、記憶が鮮明に蘇ってきてしまいそうで怖かったからだ。
栗原も、聞き返さないでいてくれた。栗原のそういうところも、僕は大好きだ。
「中森」
唐突に、栗原が僕の名前を呼ぶ。それだけで、ひどく安堵を覚えた。だけど今日は、ただ穏やかな気分になるだけでは終わらなかった。
隣に座っている栗原の身体が、スローモーションで近づいてくる。何が起こっているのか理解できなくて、僕はぼんやりと栗原を見ていた。
「栗原……?」
「これからは俺にお前を守らせてくれ」
身体に腕がまわされ、温かい圧力を感じる。
僕は栗原に抱き締められているのだ。
嬉し過ぎて信じられなかった。栗原の言葉も、この温もりも。
きっと僕は夢を見ているんだ。目覚めればまた、誰にも助けを求められず荒川さんに怯えるだけの日々が待っている。そう考えていないと、この喜びが僕の勘違いだったとき、耐えられなくなりそうだった。
「中森が好きだから」
また黙り込んだ僕に、栗原は力強く、はっきりとそう言った。
「ほんと……に……?」
「ああ。もう絶対にお前を泣かせない。好きだから」
そう言われたそばから、僕は少し泣いた。
「……好きだから、荒川さんのことは絶対に許さない」
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