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その4
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「違ぇだろ、雨宮。逆だろうが?」
えーと。……いや、何が?
柏木は凄みのある笑みを浮かべたまま首を振った。逆、と指摘されたは良いけれどさっぱり意味がわからない。
押さえつけるのが逆?
なら心臓に僕が押さえられるってことか。いやいやいやいや、何だその罰ゲーム。おかしいよね。恐いよ。
「気色悪いことを言うな」
つい想像してしまい背筋が寒くなったのでバッサリ言い捨てた。すると、柏木は片方の眉を器用に上げて目を細める。なにやら驚いているようだった。何してもイケメンはイケメンだなあ。まあ、会長も同じ属性だけど。
周囲のざわめきはいつのまにやら大人しくなっていて、皆何故か僕たちの会話を聞いているらしかった。
心臓の話がそんなに面白いのかな? 隣のチワワ君も目をキラキラ輝かせながら耳を傾けている。
「雨宮……あんた、俺相手に突っ込むつもりかよ?」
え。
柏木いつボケたの!?!?
ツッコミ入れる要素あった今!?
……もしかして漫才コンビを探しているんだろうか。柏木が漫才師を目指しているなんて知らなかった。
いやいや、僕じゃ相方になんてなれない。漫才なんてやったことないし。申し訳ないけど、ここは丁寧に断っておこう。
「興味無い。他をあたれ」
漫才観るのは好きなんだけどね。やるのは無理だよ、才能無いし。ネタを考えたりするのって難しそうだ。
あれ、ていうか僕の心臓の話はどこに消えたんだ。あれ?
内心で首を傾げていると、周りのざわめきがまた復活していた。「雨宮様になら僕……突っ込まれたい」とか聞こえるけど、チワワ君たちは僕のどこを見てツッコミの才能を見いだしたんだろうか。詳しく話を聞いてみたい。
一方の柏木はというと、ぐっと眉を寄せた後に何を思ったのかにやりと怪しい笑みに変わった。
「攻略は難しいだろうが……ふん、いつか俺が突っ込んであんたを鳴かせてやるよ」
いきなりボケ要員にされた!!
やらないって言っただろ!!
しかも泣くほどツッコミ入れるってそれはやりすぎなんじゃないか。いや、そうか、柏木はそれだけ相方を探しているんだな。漫才に命をかけているんだな。
僕じゃ相方には不足だし、さり気なく漫才好きでも探してやるとしよう。強面の柏木が漫才をしたらなかなか楽しそうだ。
僕の決意を余所に、柏木は満足そうに目を細めると前を向いた。それと同時にチャイムが鳴って現国の先生が入ってくる。ざわめいていた周囲も先生の姿に気付いて徐々に静まっていった。
柏木の強すぎる眼光からようやく解放されてホッとしながらも、柏木の将来の夢を知って少し嬉しくなった。普段あんまりこういう話はしないから新鮮だ。
頑張れよ、漫才師。
***
後でこの話を朔夜にしたら、「また妙な勘違い連鎖があったんだな……」と複雑そうに笑われた。
その後に「漫才練習には絶対付き合うなよ」と釘をさされたのでよくわからないまま頷いておいた。
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