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康介とライブ
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ライブハウスへ着くと、康介がソワソワと落ち着かなくなってきた。
「どうした? ここはドリンク付いてるからあそこのカウンターで飲み物もらって来な…… あ、酒はダメだぞ」
キョロキョロしながらカウンターへ歩いていく康介の後ろ姿を見ていると、圭ちゃんが俺の方に来てくれた。
「急に弟連れてくるなんて言うからびっくりしたよ。兄弟仲がいいんだな」
「いやさ…… 高校に入った途端懐いてきて正直困ってるんだよ。鬱陶しいったら……」
思わず苦笑いするも、圭ちゃんに「家族のことをそんな風に言うもんじゃない」と怒られてしまった。
「で、その弟君はどこ? 紹介してよ」
圭ちゃんにそう言われ康介の方を見ると、瓶片手にこっちに向かって歩いているのが見えた。
「あれ。あの少しキョドってるのが弟の康介。今日はさ、あいついるから打ち上げ出ないで俺は家に帰るわ…… ごめんな圭ちゃん」
「いや、いいよ。いつでも会えるしね」
そう言って圭ちゃんは俺の手をコッソリと握った。
……こういうところ、凄く可愛い。
そんな話をしてるうちに康介が戻ってきて、俺の隣にいる圭ちゃんに視線をやる。
「あ! お前、酒はダメだって言ったじゃんか! それビールだぞ」
康介はちゃっかりコロナの瓶を手にしていた。
「え? これ酒なの? なんかジュースかと思ったから…… ライム刺してくれたし」
慌てながら康介は手に持った瓶を眺める。
はぁ…… 頼むから酔っ払わないでくれよ。
「まぁいいや、ほれ康介、この人わかる? D-ASCH のボーカル、坂上圭さん」
少し丁寧に紹介すると、顔を上げた康介はパァッと笑顔になった。
「圭ちゃん、こいつが弟の康介」
圭ちゃんは笑顔のまま緊張からか何も言わない康介の頭をぽんぽんとして「よろしくね」と笑いかけた。そして間も無く出番だからと言って圭ちゃんは控室へ戻って行った。
「すげー! 兄貴、圭さんと友達だったんだ! あの人学校違うよね? なんで? ねぇなんで? 仲いいの?」
……煩いな。
「圭ちゃんとドラムの靖史は中学が一緒だったの。で、二年の周と修斗を俺が紹介してあげたんだよ」
どうだ? 凄えだろ? 俺を敬え! 尊敬しろ!
俺の心の声が聞こえたのか、俺の事をジッと見つめ「兄貴すげえ… 」と康介は呟いた。
いつものように俺は後ろの方でステージを見る。康介は落ち着きなさそうにキョロキョロしてるから「気になるなら前の方行ってもいいんだぞ」と言ってやったら少し迷った顔をして小さく首を振った。
「うんん、兄貴と一緒にいる……」
少し落ち着いたのか、大人しくなった康介が俺の隣で寄り添ってきた。まあ一人で前に行けと言われても初めてなんだし躊躇うよな。
ステージに圭ちゃん達が登場すると歓声が上がる。周のギターの合図で圭ちゃんがジャンプしながら一曲目が始まった。
どよめく会場内。決して広くはないこの空間だけど、一瞬にして一体感が生まれるんだ。この瞬間が俺は大好き……
圭ちゃんは、必ず最初のジャンプから俺の姿を目で探して、俺を見つけるとウインクしてくれる。そのウインクで女のファンが黄色い悲鳴をあげるんだよな。
いつ見てもかっこいい……
数曲終わったところで隣にいたはずの康介がいないことに気がついた。でもすぐに前の方にいる康介を見つけてホッとする。知らない奴と楽しそうにノリノリで体を揺らしている康介に思わず俺も嬉しくなった。
ああ…… でもこれはまた、次も連れてけって言われるんだろうな。面倒臭いけどしょうがないか。
ライブも終わり、いつもなら控室へ向かってその後は打ち上げに参加するんだけど、今日は康介と一緒にすぐに帰宅した。
帰りの道中も康介は大興奮で、すぐに圭ちゃん達のファンになったらしい。そして案の定、次も連れていけとしつこくお願いをされてしまった。
「別にいいけどさ、今度はお前誰か友達連れて来いよ。そうすれば俺は気兼ねなく圭ちゃん達と打ち上げにも行けるし……」
そう言うと嬉しそうに目を細めて、鼻を膨らませながらフンフンと康介は頷いた。
そして数日後、今度のライブには竜太君と一緒に行くからよろしくね! と、わざわざ康介が言いに来た。
おいおい……
人選間違ってねえか? 竜太君、ライブなんて全然興味ないだろ。やっぱりあいつ、竜太君しか友達いないんじゃないのかな? 竜太君を無理やり誘っているのが目に浮かぶ……
ごめんな。竜太君。
こうして俺は、二回目のライブは康介と竜太君を連れて行く羽目になった。
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