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キャンプ16 空の思い2
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光に照らされた斗真の顔が、俺の目に焼き付けられる。
…俺が…本当に望んでる事は…
斗真の悲痛で歪められた表情に全身が強張る。
…こんなのじゃ………ない…
“行け!!”
気づいたら無意識のうちに、そう叫んでいた。
どんな事をしてでも…光陽くんにとられるくらいなら…俺が…斗真を……
なんて思ってた。
だけど…
不意に、あの…幼き日の斗真が浮かんだんだ。
『空兄、好きっ…優しい空兄が……大好きっ』
そういって無邪気に笑う斗真が
「け…」
「…え?」
「行け!!」
…これでいいんだ
斗真は叫び声に少しひるんだけど、俺の腕から恐る恐 ると言った感じで抜けて…外へとでていった。
たん、たん、たん…
段々足音が離れて行く音を呆然と聞く
……そう、これで…よかったんだ
あぁ、もう…少しだったのにな……大人気なく涙が滲む。
何でこんな時に思い出すんだろう…
忘れかけて荒んでいた、あの時の笑顔が鮮明に蘇った。
その斗真の笑顔に、自分のした事に、後少しで斗真を手に入れられたのに…悔しさと嫉妬で俺の心はぐちゃぐちゃになった。
だけど…1番強いのは嫌悪感だった
あの笑顔が俺を見つめる。
俺は…斗真が笑ってくれれば…それでいいと思ってたのに。それが俺にとっての幸せだと思っていたのに…いつの間にかそれは独占欲に変わっていった。
キャンプ場でのことを振り返る。
今までしてきた自分の姿は…アニメやドラマで言うところの、悪者そのものの姿だった。
汚くて、醜くて、真っ黒…そんな言葉が当てはまり過ぎる。
俺は最低な人間だ。
ははっと自嘲気味た笑顔をこぼす。
“優しい兄”…それが斗真にとっての俺だった。
だけど実際、俺は斗真が思ってるような優しいお兄ちゃんじゃない。人の気持ちを捻じ曲げるようなことをする。それが好きな人…斗真であっても……
だけど、斗真の前ではそうであるように…優しい兄を演じてきたのだ。
嫌われないために……要は…自分のために
折角ここまで演じてきたのにバレちゃったな…こんな俺にきっと斗真は失望しただろう。失望どころか…もう兄としては見てくれなくなるだろう、ただのどす黒く染まったただの最低で最悪な人間の事なんか。
情けなく下を向いたまま、はは、はははっと自嘲し、壊れたように笑続ける俺の頬に涙が伝った。
自業自得
それなのに…この後に及んで自分って可哀想とか悲劇の主人公を気取ってる自分がいる。
吐き気がした。
心の底から最底な奴だ。そう再認識させられる。
…自分が……憎くて憎くて堪らなくなる。
手を爪が食い込むほど強く握りしめる。
じわじわと生ぬるい液体が手を赤く染め始めた。
その時
「……空兄っ!大丈夫!?」
そこにいるはずのない声が頭に響く。
幻聴…か?
そう思ったが、血が滲んでる手を優しく包みこむその手の暖かさを感じて…はっとなった。
「…なんで、…い…るんだ?」
信じられなくて…困惑した俺の声は、情けなく震えていた。
そんな俺に……斗真は…笑顔を向けた。
もう、俺に向けられる事は絶対にない。
そう思っていたものがそこにあった。
……あの日のように、優しい太陽のように無邪気に微笑む斗真がいた。
汚くて、醜くて、真っ黒い…最底な俺をみた斗真
それは軽蔑するといっては過言でもない。
ましてや笑顔を自分に向けるなど…
嬉しさで満ちあふれた瞬間、すぐに俺の心は白で埋まったオセロの駒が、全て黒に変わっていくように疑心へと変わっていった。
「な、んで笑っていられる…同、情……憐れみ…か?」
脳が考えるより先に思わず口にでていた。
斗真は人をそんな目でみる事はしない。
小さい頃から見てきた俺が1番よく分かっている。
それなのに混乱し、意図がつかめない俺は疑問を投げかけた。
そして…ふと気づく
…こんな俺は同情する価値もない。憐れられる価値もない。だから…そんな顔で見つめるな…まるでもう、なんとも思ってないかのように微笑むな。
「こんな…こんな最底な事をした…最悪な人間だ」
だから…もう許している…そんな顔で微笑んで俺を見つめるな!
「俺は…斗真が思ってるような優しい人じゃ…ないんだよ」
だから…俺に笑いかけないで…
こんな奴……憎くてしょうがないだろ?睨みつけろよ!
みっともなく、涙を流しながら訴える。
「…空兄は、最底な人間なんかじゃないよ?…すごく……優しい人だ」
俺の涙を手で触れながら、落ち着いた声で語る
…俺の事は、もう怖くない。そう言っているようだった。
「嘘だ…だって……今だって!」
みたはずだ…俺の本性がどれだけ穢れて汚いか…
「今だって…変わらない。変わらないよ?空兄は優しい」
「な、んで…」
「だって、さっき僕を離してくれたじゃないか」
「それは間がさしただけだ!…本当は…本当の俺は、返すつもりなんて…微塵もなかった」
俺は斗真を冷たい目で声で言い放った。
違う俺は優しくなんてない。
「でも!…実際は離してくれた。……それは、空兄自身のためじゃなく…僕のために…でしょ?」
「…そ、れは… 」
言葉が詰まった瞬間、斗真が追い詰める。
「ほら、優しいじゃないか…やっぱり空兄は……優しい人だよ?」
「………」
何も言い返す言葉がみつからず…ただただ、優しい人そういいながら微笑む斗真から目が離せなくなる。
「自分にのためじゃなくて、人のために折れることができる。そんなの……優しい人じゃなきゃ、できない事だよ」
「…」
血が赤く黒ずみ始めた手をぎゅっと握られる
斗真の暖かさが、ぬくもりが、優しさがつたわってくる。
氷が溶けるように…じんじんっとそこから熱くなっていった。
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