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となりの後輩
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「あー疲れた」
どさっと持ってた通学カバンを机に置いて席に突っ伏すと、「まだ授業も始まってないのに」と頭の上から声がかかった。
顔を見なくたってわかる。
俺の一つ前の席の桐島だ。
「なんかここ最近特に『疲れた』って言ってんね。ストーカーにでも遭ってんの?」
「…違うけど」
ついうんざりした口調で返すと、桐島はズイと身を乗り出した。
「面白い? それって面白い?」
「面白くない。少なくとも俺には」
「柚木の主観なんて聞いてない。
俺が、面白いか聞いてんの。
他人事だったらそれ面白い?」
いっつも思うけど、よく飽きないなあ。
こういう野次馬っぽいとこは面倒で心底ウザいけど、まあいいヤツなんて位置づけなのは、桐島がなんだかんだ相談相手にうってつけだからかもしんない。
えーっとなんだっけ。
第三者の視点で見れば、俺の好きな子(美香)は後輩が好きで、後輩は俺が好き(まあからかわれてんだろうけど)っていう図は……面白い?のか?
そしてそのからかわれ方にいい加減辟易してるっていうだけっちゃあだけなんだけど、
どうなんだ?
なんかだんだんどーでもよくなってきたのでそんなことを伝えると、「ちょっと面白い」なんて言って桐島は目をきらめかせた。
ほんとこいつ…。
「なんだっけ、その後輩?って、こないだ入学式で新入生代表したやつだろ?
名前は確か…篠原、」
「篠原千明」と渋々引き取る。「隣に住んでる後輩」
「あいつモテそうだよな、なんか人良さそうだし顔もイイし。幼馴染みがなびくのもわからなくもないというか」
何気無く呟かれた言葉は矢のようにぐさぐさ遠慮なくココロに突き刺さった。
人が良くて顔も良くてなびくのもわかる。
…さらに言えば憎めねーよ。くそ。
「篠原は柚木のどこが好きって言ってんの?」
好奇心丸出しのニヤついた顔にうんざりだ。
これが無ければそれなりにマシな顔なのに。
優等生っぽいというかなんというか。眼鏡ないけど。
なんか言ってやろうと口を開いたけどちょうど担任が入ってきたので、
何も言わずに桐島の席を思い切り蹴って会話を終わらせた。
肘をついて担任の声を右から左に、ぼうっと窓の外を眺めてると、そういえば、なんて思い出す。
あいつが来たのは5年も前だったなあ。
当時の俺は小6で、今は篠なんて呼んでるあいつは1コ下だから小5だった。
それまでは老夫婦が住んでた部屋に同じ年頃の、しかも男の子が越してきたもんだから、遊び相手が増えた!ってひとりっ子の俺は喜んだけど、
仲良くすればするほど美香とも必然的に親しくなって、3人で遊ぶ機会が増えて、
兄貴みたいに俺を慕ってた美香が俺に…『話があるの』なんて言ってテンションMAXになって浮かれてたら篠のことが好きだって、3秒で玉砕した日、
俺は確か篠を名前で呼ばなくなったんだっけ。
まあ今考えてみれば、天性のタラシで見てくれもそこそこ良くて優しい篠がやっぱりモテないはずないし、美香だって急に生えてきた松茸(引っ越してきた篠)に恋しちゃうのも無理ない。
俺が人のこと言えた義理じゃないけど、奥手な美香は未だに想いを伝えてないらしく、篠は篠で今彼女が居るらしい(美香情報)。
背もそれなりに高いし(確か178?とか)みるからに優男だし愛想もいい、篠は隣人として付き合う分には申し分ないヤツだけど、
まあその、なんつーか…美香のこともあって(むしろそれしかない)、
中学時代は同じ学校だったけどほとんど話すことさえ無かった。
なのになんでか今さら同じ高校受けて、いや美香の影響かなーとか思ってたら俺と同じ理数科受けて(美香は普通科だ)、受かった当日俺を訪ねて「夏目先輩のこと好きで」。
全く関わりを持たなかった3年のうちに、篠は俺の知らない未知の世界のヒトになっていたというワケだ。
人間って怖い。
お決まりの朝のホームルームが終わって、くるりと姿勢を変えた桐島に「さっきの話だけど」と切り出された。
「本気でメーワクしてんならガツンと言えよ? 年下なら尚更さあ」
「最近になって急に話すようになった相手に『くたばれミジンコ野郎』って? さすがにそれは…」
「そこまで迷惑してんの!?」
一瞬で桐島がぎょっとする。
「じゃあなんて言うんだよ、動物園のチケット渡して『ライオンの餌食になれ』とか?」
「意味わかんねーよ」
「青春18切符渡して『これで行けるとこまで行ってこい!』とか?」
「もっと意味わかんねーよ」
「え、青春18切符知らない?」
「そっちじゃなくて!」
「わかってるって」と暴れ馬をたしなめるように身振りで示すと、桐島はちょっとふてくされてそっぽを向いた。
心配してんのに、なんて声も聞こえた気がする。
「何考えてんのか全然わかんねーけど、まあそのうち飽きるだろ。ちょっとちょっかい出してやろう、みたいな感じだろうし」
言いながらなんとなく(そうあって欲しい)願望をぶつけると、桐島は「まあ…俺で良ければいつでも相談乗るけど」と、さっきとは打って変わった返事を返した。
やっぱ持つべきものは友達…
「相談一回につき昼飯オゴれよ」
「くたばれミジンコ野郎」
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