アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
日曜日
-
***
なんだかんだであっという間に日曜日。
憂鬱だ。ものすごく。
合コン自体は初めてじゃないしオゴりだからテンションは上がるけど、篠も来るっていうのがなあ…。
美香には面倒なので本人にバレる前にこっちからこの話をすると、『夏目も一緒なら安心!』なんて言われて俺としては針のムシロだ。
いや…もういいけど。わかってるけど。
あ、ダメだなんか泣きそう。
家を出る時間がかぶって篠と待ち合わせ場所へ、なんてことになりたくないから、予定より1時間早く支度して本屋で時間を潰す。
俺個人的に本屋大好きなんだよな。
ここにいることがすでに幸せ。将来は出版関係の仕事をしたいと思えるくらいは、紙とインクが好きだ。
…とかなんとかウロウロしてたら、すでに待ち合わせに遅刻してた。
急いで水無月に電話を掛けると、『どーせそんなことだろうと思った』と携帯越しでもわかる苦笑い。
ダッシュでカラオケに向かえば、すでに自己紹介は終わってて歌えるファミレスみたいな状態で、言ってしまえばグダグダだった。
「水無月ごめん」
パチンと両手を合わせて謝ると「ヘーキヘーキ」と軽いノリ。
遅刻したからか悪目立ちした気まずさのまま自己紹介を終わらせ、「こっち座れよ」と誘われた桐島の隣にちょこんと座る。
「どーせまた本屋だったんだろー?」
やっぱり桐島にはお見通しらしい。
「…まあ」
「え、なになに? 夏目くん本屋好きなの?」
違和感なく手を握り話しかけて来たのは二重が印象的な派手な子だった。
「ありさでーす」とニッコリ笑うのは可愛いけど、ありさちゃん香水ちょっとキツイです。
柑橘系なら大丈夫だけど、こういうフローラル系は…あの…!
感じいい子だし邪険には扱えないしで(加えて俺チキンだし)無理やり笑って話題を増やす。
それに気づいたのか桐島が面白そうにクスクス笑うのがムカつく。
「あたしね、夏目くんに会うの超楽しみだったんだぁ」
「あ…そう、なんだ」
「だって夏目くん超キレーな顔だし。ほんとイケメンだよねぇ」
とかなんとか言ってありさちゃんはぐいと俺に近寄った。
狭い室内で全員がギュウギュウなってるけど、これは近すぎなんじゃないかと思うんだ。っていうか胸当たってるしちょっとこれセクハラじゃねーの!?
おいおいおいおい、って桐島にヘルプを求めて顔を上げれば…って居ねえ!!
さっきまで居たはずの場所には見憶えのない女の子が座ってて、柏木と仲良く曲を入れてる最中だった。
あいつこの数分の間にどこ消えた!?
柏木はその女の子にデレデレでこっちを見向きもしないし(多分俺が来たことにも気づいてなさそう)アテにならないし、
でもこれ以上キョロキョロしたらこの子に悪いような気もするし。
これでもかってくらい座席に背中を押し付けて微動だにせずに固まってると、
一番聞きたくない声が聞こえた。
「夏目先輩、何飲む?」
顔を見なくたってわかる。
どうせ、そのムダに整ったツラで『助けてあげなきゃなあ』みたいな表情してるんだろう。
裏が無いからイヤなんだ。
お前の、そういうとこ。
「…メニュー、見せて」
「はい。
ありささんも何か飲むでしょ?」
そっと、だけど相手に気づかれないようにスルリと輪の中に入ってくるスキルは流石だ。
ありさちゃんは気が逸れたのか「ジンジャエールにしよっかなぁ」ってメニューと睨めっこしてる。
良かった。まあ…そんな大したことでもないけど。
チラ、と篠を盗み見ようとしたらタイミングが悪かったみたいで思いっきり目が合って、
舌を噛んで死にたくなった。
ダメだ。もうダメな気がする。
なにが? わかんね。なにかが。
席立とう。
「俺頼んで来る」
「えっ…なら俺が、」
「いいよ座ってな。
トイレに行くついでだし」
同じタイミングで腰を上げようとした篠を椅子に押し戻して、
これもついでだ、と他の人の分も飲み物のオーダーを聞いて部屋を出た。
中に居るとわかんないけど、廊下は結構いろんな音が聴こえてくんなあ。
ちょっと…音に、酔ったかも。
たまたますれ違ったスタッフにドリンクの追加注文を伝えて、早々にトイレに向かった。
走って来たし、動揺したし、部屋は空気淀んでるし…あんまりカラオケ来ないからかな。気持ち悪い。
顔を洗えばマシになるかも、とトイレの手洗い場に着いて蛇口をひねると、直後に入口のドアが開いて肩が跳ねた。
「先輩、大丈夫?」
「…お前かよ」
知った声に、自分でもわかるくらい気だるい声が出た。
だから見たくないんだって。今は。
篠はここまで走って来たのか、少し息が上がってて髪が乱れてた。
「先輩? どうしたの? どっか痛いの?」
「いや…」
なんか見慣れないと思ったら、いつもと髪型が違うのか。
学校の時は前髪を下ろしてんのに、遊びだからかデコが見えてる。
人間、眉の動きって大事だな。
だってさ、
「そんな心配そうな篠の顔、初めて見た…」
はの字に眉を寄せて俺を気遣う篠は新鮮だ。
だからついそんなことを言っちゃって、
言ったついでに「いつもそうしてれば、お前の顔色うかがわなくて済むのにな」なんて適当に誤魔化した。
一転、篠は無反応で、ってなんでいちいち篠の機嫌を気にしなきゃなんねんだ。
そもそも篠がこんなトコまでついてくるから俺だって気まずいわけだし、こいつ情緒不安定なのか知んないけど最近ますます何考えてんのかわっかんないし…あーもう!
いいや。
「俺外の空気吸って来る。水無月には俺から言っとくから」
相変わらずだんまりの篠をあえて刺激しないようにして、トイレから出て来た道を引き返した。
篠は追っては来なかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 37