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墓穴の掘り方
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それから約三週間、
可能な限り篠を避けまくった。
もう傷つけるとか傷つけないとかそういうレベルじゃなくて、純粋に俺のためだ。
まあ、どんだけ気を使って避けたって、
委員会では顔を合わせるんだけど????。
***
「あれ、夏目先輩も…体育大会の委員掛け持ってんの?」
すっかりお馴染みになった会議室で仏頂面してる(最悪なタイミングで最悪な思い出を思い出しちゃってる)と、斜め上から声が降って来た。
まあ…そうだよな。
お前も委員だったもんな。来るよな。ハア。
ちなみにお察しの通り今日は来月行われる体育大会の集まりだ。
今回が第一回目で、大会の趣旨がどうの?とか係り決めて?とかそんなことをやるらしい。
一週間ぶりの篠はちょっと面食らったようで…かと思えばすぐに破顔した。
「なんだよ…悪いかよ。ていうかなんで笑ってんの」
「いやぁ、偶然でも嬉しいなって。
ここんとこずーっと先輩に避けられちゃってるから」
「…良かったな。じゃ」
「えっ」
「お前そこ座るなら俺向こう行くわ」
当然のように隣のイスを引いたから慌てて席を立つと、すぐさま腕を取られて動けなくなった。
抗議の声を上げる間も無くイスがぶつかったから、それなりに大きな音がして周りの視線を浴びてしまう。
「篠、」
「余ってる席、普通科の近くしか残ってないっすよ?
球技大会と違って普通科と理数科はライバル同士ですけど…」
だから今向こうに移ったら、すっげ白い目で見られますよ。
グイと引っ張られて耳に近いところで聞いた無声音は、ごもっともな意見で納得するしかなくて…仕方ないから渋々座り直す。
チラ、と向かいの普通科を見れば、やはりというかなんというか、目をギラギラさせてこっちを見ていた。
……怖っ。
「ね、言った通りでしょ?」
クスクス笑う篠の声音はこの場にあんまり馴染んでない。
たぶん勝ち負けとかどーでもいいんだろーな。俺もだけど。
「また一緒の係りだと良いっすね」
「絶対やだ」
委員会は30分くらいで終わった。
有難いことに体育大会の係り決めはクジじゃなくて学年、科、クラス全部に振り分けられていて、篠は進行、俺は救護で別々だった。
進行なら本番の時は指示しなきゃで出突っ張りだし、救護は本部テントから動けないから接点は少ない。つかほぼ無い。
というか…俺も俺で、あいつのこと意識し過ぎなんだよなあ…。
わかってるんだけど、側に来られるとどう接していいかわかんないんだよ。
なのにあいつは、こっちの気も知らないでへらへらへらへらへらはらしてるしっ。
ん?
へらはらってなんだ。
「夏目先輩」
「うっわあ!!」
5月も半ば過ぎて明るくなってきたのに、魔法みたいに現れた篠の周りだけなんか薄暗かった。
校門の、影になってたから?
とにかくビビった。寿命縮むわ!
「忍者ごっこやめろって、ホントに…」
いつかの時といい今日といい、脅かすのが好きなわけ?
デジャヴ過ぎて辛い。
篠はそんな俺を笑うでもなく心配するでもなく、ただきょとんとした表情だ。
「別に先輩を脅かすのが好きとかじゃないんスけどね」
「人の心を読むんじゃありません」
「えっ? ウソ俺読んじゃった?」
「…じゃ、そゆことで」
「えっちょっと、待って先輩待って待って!
待ってよ! ごめんって!」
出来るだけ早足で篠の脇をすり抜けると、あっという間に追いつかれた。
足の長さの違いをまじまじ見せつけられたようで腹が立つから、歩くスピードを緩めるなんて絶対しないと心に誓う。
…俺と5、6センチしか身長違わねーのに。
通学路を半分ほど過ぎるまで、お互いずっと無言だった。
懇願するような声で口を開いたのは篠だ。
「先輩、ねぇ待ってよ」
「……」
「先輩ってば。
俺先輩に聞いて欲しいことがあるんだ。頼みごとっていうか」
「……」
「じゃ、じゃあ…このままでいいから聞いて」
「……」
「あのさ、来週の球技大会なんだけど、俺クラスではバスケに出るんだ」
「……」
「バスケ部が何人かいるチームに入ったから、結構いいとこまで行くんじゃないかなって。いや、もちろん俺も頑張るけど」
「……」
「で…さ、良かったら、あのその良かったらでいいんだけど、試合を観に来て欲しいなって思ってて…もし先輩が応援しに来てくれたらぜっったい勝つから。
それで、」
「……」
「それで…もし勝ったら」
「篠」
もう、限界だった。
我慢できなくて立ち止まって声をかけると、篠はわかりやすく顔をキラキラさせて俺を覗き込んだ。
ああなんか期待させたみたいで本当に本当に申し訳ないんだけど、
「酸欠で……すっげ…気持ち、悪っ……!」
「はっ!? 夏目先輩!?
ちょちょちょちょ、ここでしゃがむの!?」
「だっ…ぉま、追い……っもん」
「ごめん何言ってるか全然わかんないけど…えーとえーと、どうしよう、えーと…とにかくここじゃ通行の迷惑になるから、どっか座れるとこ行こう?
家までまだあるし…近くに公園あったよね?
あそこ行こ。肩掴まって。立てる?」
「無理…吐く」
「吐く!?」
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