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偶然
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木曜日の朝、ボーッとしながらエレベーターを待つ姿。
「おはよう、増村。2限あるんだな。」
驚いたように振り返り、俺を見る君。
「え?! あ、うん。すごい偶然だね!」
驚きからか、慌てふためいているその姿を見て可笑しくなる。
「ど、どうしたの田辺君?いきなり笑って。俺、何か変なこと言った?」
分かりやすいやつ。
「違うよ。」と笑いながら返せば、顔を赤らめて「もう。」と呟く君。
「怒ってる?ごめんごめん。あ、ほら、エレベーター着いたから乗ろうよ。」
そう言って、増村の背中を押してエレベーターに乗る。増村は大人しく押されるがままだった。
「田辺君、あのさ。」
駅へと歩いている時に、拗ねて口を聞いてくれなかった増村が漸く話しだした。
「何?」
「今日、田辺君の分までお弁当作ってきたんだ。」
何それ。
俺の分までって、彼女かよ。
「あ、迷惑だった?」
潤んだ瞳を上目にして俺を見る。
「えっと。」
俺はどうやら、お前のそう言うのに弱いらしい。分かりやすいのは俺の方かもな、なんて苦笑していると、増村がしょげた。
「増村、なんでしょげるんだよ。」
「だって、迷惑そうな顔をしたじゃん。」
「え、そんな顔した?」
「した。」
「……だとしたら、ごめん。でも、迷惑じゃないよ。昼飯の時、楽しみにしとくよ。」
俺がそう言うと、ぱあっと輝く表情。
こいつの顔はコロコロと変わっていて楽しいということに気づいた。
「田辺君楽しそうだね。」
「まあね。」
朝の登校が、楽しいだなんて感じたのは今日が初めてだ。そう思っていると、横から満足気な表情が「よかった。」と言ったのが聞こえた。
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