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遅刻
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可笑しいな。
腕時計の針が、9時30分を指し示す。エレベーターの前に現れる様子のない君。心配になって、メールをするも返事がない。どうしたんだろう。
気になった俺は、302号室の前まで来ていた。
ピーンポーンと、インターフォンを鳴らす。可笑しいな。応答がない。ちょっぴり不安になって、ドアノブに手をかける。
まさか、ね。
開いているわけがないと思いながらも、ドアノブを押すと”カチャリ”と開く扉。
「えっ!!」
ドアに鍵がかかっていないことにも驚いたが、俺が一番驚いたのは玄関で君が倒れていることだった。
「増村!! 増村、起きろ!! 大丈夫か?!」
ペチペチと頬を叩けば、怪訝な顔になるそれ。一定のリズムを刻んだ呼吸音が聞こえる。目の下にはくまができている。どうやら、眠っているだけのようだ。この様子だと、こいつ、夜寝てないな。
取り敢えず、増村を抱きかかえて部屋の中に入る。
「よいしょっと。」
目に付いたベッドに寝かせる。気持ちよさそうな表情になる君。
「全く、馬鹿だろ。」
寝不足の原因は、こいつの部屋の机の上にあったものを見て知る。この前覗きみた手帳が置かれていた。そこには、大量に何かが書かれていた。増村が起きるまで、それを見て退屈しのぎをすることにする。
ペラリ――
君が寝ているベッドを机替わりにして、手帳をめくる。
「へえ、タイムスケジュールなんて書いちゃって。」
そこには、今日の予定が分刻みでびっしりと細かく書かれていた。
ここまでしなくてもいいだろうに。
また、ページをめくれば、今度は弁当の中身を何にするかが書かれていた。この前俺が美味しそうに食べてたものがなんだったのかとか、定番メニューとかが沢山並べられている。恐らく、その中でもまるで囲まれているものが今日の弁当の中身だろう。
そう言えば、リストは増えたのだろうか。
気になって、最初のページを見る。
「ふーん。」
新しく書き込まれたものがあった。
・手を握る
俺は手帳を閉じて、健やかに寝ている君の手を見る。白くて綺麗な手。でもちょっと青白い不健康そうな手。その手に、自分の指を絡ませる。
「あったかい。」
確か、眠っている最中の幼児の手は熱いって言ってたっけ。そんなことを、ふと思い出して可笑しくなる。
実は、俺も余り眠れていない。
ちょっとだけ。
少しだけ。
君の手を握り締めたまま、頭をベッドに預けた。
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