アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
来た理由
-
割と洒落た居酒屋。トイレもちょっと洒落ている。
別にトイレに行きたくてきた訳ではない。入ってすぐのところにあった鏡の前に立つ。映って見えるのは、顔の赤い自分の姿だった。
熱い。
さっき飲んだ酒が回り始めたのだろう。体が火照ってきた。そして、まだ感触の残る左手。あの時の君の表情と言ったら……
君の仕草、不安気な目を思い出して鏡に映った俺はだらしなく口元が緩んでいた。
そう言えば、君は大丈夫だろうか。あの美菜って子、猛烈にアタックしていたな。
キィー
トイレへのドアが開く音がした。振り返れば、顔を真っ赤にしている君が気まずそうに入ってくる。目が合う。
「あ、ま、すむら。」
「おう……」
思わず君の右手を見てしまう。
「なんか、増村の前の女の子、すごかったな。」
「ああ……」
煮え切らない返事ばかりする君。
「それと、昨日のレモンのは「アンタはさ。」……え?」
話題を変えて、昨日のお礼をしようかなとすると、君が突如俺をキッと睨む。
「アンタはさ、俺に何をして欲しいの? 俺さ、アンタに告白した人間だよな? なのに何でこんなところに連れてくんだよ。何でアンタが女の子と仲良く話してる姿を見せつけられなきゃいけないんだよ。」
次第に潤む瞳。震える体。
「増村?」
「帰ろう。」
「え?」
いきなり俺の手を掴んで引っ張り出す。ずかずかとさっきまでいた個室の方へと歩を進める。近くに来るといきなり君は気分が悪そうになる。
「う……た、なべ……」
「え?! ちょっ!! どうしたんだよ増村?? もしかして、お前酒弱いの?」
こくこくと頷く。本当に気分が悪そうだったので、君の腕を俺の肩に回してもたれさせる。猫背になる君の背中を優しくさする。
「吐き気とかある?」
「う、ん」
キツそうな表情になる君。俺は心配になり、本当に合コンを途中で抜け出そうと思った。廊下側にいた柿園もこの姿を見て心配してくれる。
「悪いな、なんか。増村君酒弱いの知らなくて。合コンとかにも強引に来てもらったようなもんだし。今日は帰って安静にしとけよ?」
そう言って、柿園は俺たちを見送ってくれた。またな、と手を振ったあと、君を俺にもたれさせながら歩く。
「おい、大丈夫か? もうすぐ出口だから、気をつけろよ? 段差あるし。」
俺のすぐ横で苦しそうに頷く。
「ありがとうございましたー!」
俺が店の扉から出ると同時に飛び交う従業員の声。出来る範囲で軽く会釈をして外に出る。
あれ? 急に軽くなった。
気がつけば、隣で俺に持たれていたはずの君が自力で立っている。ポカンと口を開けて君を見ていると、綺麗に微笑まれる。
「引っかかった?」
月の光に薄く照らされる君の姿。
俺の横にいる姿が、さっきとは正反対の元気さを見せた。
「今日俺が来た理由、教えてやる。」
強い瞳。してやったり顔。
「アンタを合コンの途中で抜け出させるため。」
「え?」
「トイレで話したことは本気。正直俺は怒ってる。そして、俺は俺らしくアンタが誰かと出来てしまったりしないように、計画を立てた。個室近くで気分悪そうにしたのは、演技。」
「え?」
それって、つまり……
「何だよ? 俺にだってこれぐらいさせろよな。」
すごいな、増村は。
「お前、最高だよ。」
ついそう口に出して、笑ってしまった。突然笑い出す俺に一瞬ギョッとするも、息を大きく吐いて君は言う。
「手。」
目の前に突き出された右手。
「ん!」
手をつなぐように促される。
「今日合コンに誘ってきた罰だ。これで許してやる。」
ちょっと照れたように言う姿が可笑しくなって微笑んでしまう。
暗い誰もいない住宅地の道路。少しだけ肌寒い外の空気。
だけれども、君の手が、存在があるから、不思議と寒くは感じなかった。
夜が常識を薄める。
君と俺。男同士だけれど違和感がない。
「あのさ。」
手を握っている最中、ずっと俯きながら歩く横の姿に声をかける。
「何だよ。」
こちらを向いてはくれない。
「アパートについたら、俺の部屋に来いよ。」
「え?」
あ、やっとこっちを向いてくれた。
「本当はさ、今日合コンなんかじゃなくて、君に差し入れのお返しをする予定を組んでたんだよね。」
微笑んで見せれば、隣の君は顔を赤くしてしばらく黙り込む。
「……別に、いいのに。」
ギュッと握られる手に、汗を感じた。
緊張してるのかな? と考えてる時、ぼそりと呟かれた一言を俺は聞き逃しはしなかった。
「でも嬉しい……行く。」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
16 / 19