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「........あーあ。」
風呂から上がり、キッチンを覗いた琥太郎がダイニングテーブルに置いてある書き置きを見て呟き、書き置きを手に2階へ上がると正太郎の部屋に行き声を掛けた。
「 ...おい、どっかの誰かさんが冷たくするから嫁さん出てっちゃったぞ。可哀想に、泣きに帰ったんじゃねぇの?」
書き置きをピラピラ掲げながらそう言うと正太郎はバッととベッドから起き上がり、そのメモを奪い取る。
【 家に帰ります 巫女都 】
それを見て俺は慌てて琥太郎を問い詰めた。
「 んで、止めなかったんだ!!」
「風呂から出たらもういなかったんだよ。大体、俺にキレんのはお門違いだろ?おい!?」
琥太郎の話も聞かずに部屋を飛び出そうとする正太郎の腕を掴み琥太郎は忠告してやる。
「 ...何だか知らねぇけど、冷静になって良く話し合え。お通夜みたいな空気で堪んねぇよ、辛気くせぇ。」
「.......っ、....行ってくる」
俺は言葉に詰まり、琥太郎にそれだけ言うと巫女の所へ向かった。神社の境内に差し掛かると、あんな事があっただけにその薄暗く余りの人気の無さに俺の焦燥は募る。
母屋に着くと家の中に明かりが灯っているのが見えて、ホッと胸を撫で下ろしたが、インターフォンを押しても応答が無くて、俺は慌てて電話を掛けたけど繋がらない。
「んで、出ねぇんだよ!!」
再び焦りを感じた俺は、苛立をぶつける様に玄関ドアをドンドンと叩きながら大声で巫女の名を呼んだ。
「 巫女ーっ!! 居んだろ!!ここ開けろ!!」
暫くそうしていると漸く施錠が解かれ、中から巫女がキョトンとしながら顔を出した。
「 正ちゃん....?どうしたのそんなに慌てて。」
巫女の姿を見て俺は漸く安堵したものの、びしょ濡れでバスタオルを腰に巻き付けただけの巫女に盛大に驚いた。危機感がなさすぎる。
「 どうしたのじゃねぇ!!一人で帰ったら危ねぇだろ!! それになんだその格好! 来たのが俺じゃなかったらどうすんだっ!!」
きゃんきゃん怒鳴る正太郎の大声に、目を細めて顔を顰めた巫女都は少しふて腐れながら言う。
「.....声で正ちゃんだって分かるし。」
「うるせぇ!口答えすんな! もっと危機感を持てっつってんの!! 1人で帰ってまた何か有ったらどうすんだ!!」
「...だって、正ちゃん足、痛そうだったし。....僕と一緒に居るの嫌そうだったから。それに、家に送ってって言ってすんなり帰されたらショックだし...。」
困ったような顔で言う巫女の言葉に俺は緊張した。巫女を避けてた理由なんて言えねぇ。
「....別に、一緒に居るの嫌とか思ってねぇよ。」
目を合わさず答えた正太郎に巫女都は胸が痛くなり、聞く。
「...僕に、触られるの嫌...なんでしょ...?」
「..........っ、」
言葉を詰まらせ苦い顔をする正太郎を見て巫女都は何かを諦めた様に言った。
「...お風呂入って...一生懸命洗ったけど、...左手じゃ上手くいかなくて。...少しでも身を清められればって思ったけど、でも...そういう事じゃ、無いんだよね。...嫌、なんだよね...?正ちゃんじゃ無い人に触られた僕に触られるの...。」
そう言って力が抜けた様に、その場にストンッと座り込んだ巫女に、俺は慌てて駆け寄り松葉杖を捨てると、同じ様に座り込んで肩に手を置いてそれを否定した。
「 違う巫女、そうじゃねぇ!...っ、そうじゃねぇんだ...。巫女は悪く無い。...俺が、悪いんだ。」
正太郎が必至にそう言うも、生気の抜けた様な顔で巫女都は弛く首を振ると立ち上がって松葉杖を拾い、正太郎に渡して無理に微笑んだ。
「 ありがと正ちゃん。でも...無理しないで。」
「本当に違げぇんだってっ!!...俺の問題なんだ。」
俺の言葉に尚も首を振る巫女に意を決して話す事にした。みっともねぇ弱い俺の事を。
「 ......怖ぇんだよ、」
「.........え?」
「...自制効かなくなって、もし...また巫女に怪我させたらって思うと...触んの...怖ぇだよっ...。」
「........正ちゃん」
正太郎の真意を聞いた巫女都はふわりとその身を抱き締めて笑う。
「 正ちゃんはそんな事しないよ。正ちゃんはそんな事するような人じゃないもん。本当だよ? 僕の方が正ちゃんより正ちゃんの事知ってるんだから!」
くすくす笑う巫女の笑顔に、心の中の黒い部分を浄化されていくようだなと思った。俺は巫女に比べてちんけだなと思い、ようやく巫女を強く抱き締め返した。
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