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偽りの鎖1
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「!本当に、来たんだ…」
どこかいつもと様子の違うでドアを開けたアスタロトに気が付くもそれどころではない。
彼の姿を見るや否や、奏はうるさく騒ぎ立てる胸の鼓動を抑えつけるのに必死だった。
──男相手にこんな気持ちになるなんて…
一歩ずつ確実に近付いてくるその距離感ですら煩わしく感じる程、奏は自分が思うよりもずっとアスタロトを求めていた事に気付いた。
「奏……」
「…!どうしたの…?」
「今夜が最後だ。オレはもう、ここへは来ない」
「っ!?……分かった。だったらもう…会えないんだね…」
会えた嬉しさから一変、奏の心は重く冷たく沈んでいく。
しかし最初からそんな予感はしていた。
悪魔に囚われた自分に、こんなに暖かく柔らかい時間はすぎるものだ。
それがいつまでも続くわけがない。
「……抱かないの?」
「!?カナデ……」
「抱いてよ。今夜が最後なんでしょ?」
どんな幸せもいつかは消えてしまう。
それを知っている奏が出した答えは縋るものでも憎むものでもなく、自分が彼にできる唯一の方法だった。
「それがお前の答えか」
「……悪魔だろ?最後まで甘い夢を見させてよ」
相手に喜びを与え、その喜びが最大限に達する手前で奈落に突き落とす。
それが悪魔という存在。
奏が知る限りでは悪魔はそういうものだ。
「ン……っ」
下腿を撫でたアスタロトの手は熱く、奏は吐息を漏らしながら今にも泣き出しそうな笑顔を浮かべた。
──これでいい。僕は幸せだった。
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